勤務先には介護休暇の制度がある。
名前は知っていた。ただ、規程を開いて「無給」の二文字を見た時点で、私はそこで読むのをやめていた。無給の休みと賃金の出る有給休暇が並んでいるなら、有給を使えばいい。長いあいだ、その一行で判断していた。
母の通院に付き添うとき、私は今も通常の有給休暇を使う。しかも終日で休むことが多い。
ただ、この制度を最近になって調べ直し、判断の前提にしていたものが、いくつも違っていたと分かった。
無給と書いてあるのは事実だった。ただ、月給が固定の私の場合、休んでも給与は減らない。賞与や昇給の算定でも、休んだ分を欠勤として数えない扱いだった。使える用事は、通院の付き添いだけではなかった。申し出の手続きも、身構えていたほど重くなかった。
変わらなかった理由もある。通院は、半日で終わる用事にならないことだ。
結論としては、私は今も有給で休んでいる。変わったのは選び方そのものではなく、何を見て選んでいるかのほうだった。
通院は、半休で収まらないことが多い

実家から病院までは車で30分ほどかかる。公共交通機関は事実上ない。
数字だけ見れば、往復1時間である。半休で足りそうに思える。
しかし実際に動くと、こうなる。
まず、自宅から実家へ母を迎えに行き、病院へ向かう。病院の駐車場に入れ、診察が終われば駐車料金を精算し、母を乗せて実家へ送る。この送り迎えだけで、1時間はかかる。
次に、待ち時間がある。市民病院なので、救急外来の受け入れで順番が変わることが多い。余裕を持って早めに着くこともある。少なくとも1時間は待つという前提で組んでいる。
診察に30分。会計に30分。院内の薬局で30分。
さらに、ストマの用品は別の薬局でなければ買えない。そこへ移動するのに車で10分かかっていた。
積み上げると、半日ではまず収まらない。
ただし、この薬局へ寄る分は今はもうない。用品を自宅へ届けてもらうようにしたからだ。
決めるまでは、通院のたびに寄るものだと思っていた。一度切り替えただけで、一回の拘束時間から移動と待ちがまとめて消えた。
足す前に、削れる工程がないかを見ておくといい。 休みの種類を工夫するより、そちらが早いことがある。
そして、時間が押したときに困るのは私だけではない。母を車に乗せて運転している。焦って事故を起こすことだけは避けたい。
だから、通院の日は終日の有給を取ることが多い。会社に対して申し訳ないという気持ちは、正直なところ今もある。
例外もある。目的がはっきりしていて時間が読める日は、午前休で済ませることもあった。
ただ、主治医が午前に一般診療を担当している時期は、午後の枠で予約を取るしかないこともあった。こちらが選べる部分は、思っているより少ない。
通院の付き添いそのものについては、母の通院に付き添うということでも書いた。ここで言いたいのは、その一回が何時間の不在になるかという点だけである。
「無給」と書いてあった規程には、続きがあった
厚生労働省は介護休暇を、要介護状態にある対象家族の介護や世話のための休暇と案内している。
通院の付き添い、介護サービスの手続き代行、ケアマネジャー等との短時間の打ち合わせにも使える。対象家族が1人なら1年に5日、2人以上なら10日まで。1日または時間単位で取得できる。
ここで分かれるのが、「有給休暇と別に取得できる」ことと、「休暇中に賃金が出る」ことである。
この二つは別の話だ。 介護休暇の期間中を有給とするか無給とするかは、会社の規程による。この点は厚生労働省の介護休暇の案内にも明記されている。
私の勤務先でも無給だった。ここまでは、以前に見たとおりである。
ただ、ここにもう一段ある。「無給」と「手取りが減る」は、同じではない。
無給の休みで実際に給与が減るかは、賃金の決まり方による。休んだ分を日割りで引く形なら減る。私の場合は月給が固定で、休んだ日数で増減しない。無給と書かれていても、その月の支給額は変わらないということだ。
そして、規程には続きがあった。 私の勤務先では、介護休暇を無給としたうえで、賞与や昇給、退職金の算定では通常どおり勤務したものとして扱う、と書かれている。無給という一語で読むのをやめていたら、この一文には気づかなかった。
規程に無給とあるのを見て有給を優先していたこと自体は、間違った読み方ではない。実際にそう書いてある。ただ、そこで止めたので、続きを読んでいなかった。
そして、私の場合はたまたま、どちらにも引っかからなかった。制度に詳しかったからではなく、勤務先の定め方と自分の給与の形がそうだった、というだけである。
一方で、知人からは、賞与の算定に出勤日数が関わるため、無給で休んだ分が賞与に多少響くと聞いた。同じ「無給」でも、会社によって出てくる場所が違う。
無給かどうかで止めず、それが自分のどこに出るのかまで見ておく。 その月の給与か、賞与や昇給、退職金か、どこにも出ないのか。規程を一度最後まで読むか、人事に聞けば分かる。
そのうえで私が有給を選んでいる理由は、無給そのものではない。年に5日という枠と、用事にかかる時間である。
もう一つ、名前が似ていて混ざりやすいものがある。「介護休暇の給付金」という言葉だ。
無給なら雇用保険から何か出るのではないか、と私も考えかけた。
しかし、数時間や1日単位で使う介護休暇に、雇用保険の介護休業給付金は出ない。 給付金は、要件を満たして介護休業を取得した人が対象になる制度である。原則の給付額は休業開始時賃金日額に支給日数と67%を掛けて計算するが、上限や賃金が支払われた場合の調整もある(厚生労働省「Q&A~介護休業給付~」)。
介護休暇は短い用事のための休暇、介護休業はまとまった期間に体制を整えるための休業。お金の扱いも役割も違う。
制度全体の見取り図は介護離職を防ぐために介護休業制度を調べたに整理した。
なお、無給か有給かは会社ごとに違う。介護休暇は無給だと決めつけることも、法律の制度だから賃金が出ると思うことも、どちらも正しくない。自分の勤務先の規程で、賃金の扱いまで確認するしかない。
買い物や役場の用事にも使える。ただし入口は思ったより狭い
私が分かっていなかったのは、ここから先だった。介護休暇は通院の付き添いに使うもの、という程度の理解でいた。
厚生労働省の資料には、対象になる「世話」の範囲がもう少し広く書かれている。対象家族を直接介護するものだけでなく、対象家族のために行う家事や買い物も、世話と認められるものであれば含まれる(厚生労働省「育児・介護休業法のポイント(資料編)」)。
省令には、先に挙げた通院の付き添いと手続きの代行に続けて、「その他の対象家族の必要な世話」という一項がある。役場や銀行の用事は名指しされていない。ただ、母のための手続きであれば、ここに収まる余地はある。
名前が挙がっていない用事ほど、勤務先の運用に左右される。母の分と自分の分が混ざる用事もある。使えるかどうかは、就業規則を見るか、人事へ一度聞くのが早い。
そして、範囲の話より手前に、大きな条件がある。
対象家族が要介護状態にあること。負傷や疾病、障害によって、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態を指す。買い物に付き添う日があるから使える、という順番ではない。
母は今、自分でタクシーや地域のバスを使って通院している。この状態が続く限り、私が付き添う買い物は対象にならない可能性が高い。手術の後の時期であれば、話は違ったはずだ。制度は、母の状態に合わせて出たり引っ込んだりする。
申し出の仕方も調べておいた。書面に限られておらず、口頭でもよい。急を要することが多いため、当日の電話による申し出でも取得を認めることが必要とされている。証明書類を求められることはあるが、その場合も事後の提出を認めるなど、重い負担にならないよう配慮することとされている(厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」)。
手続きそのものは、私が身構えていたほど重くない。
時間休が使えるのは、時間が読める用事だけ

最近、勤務先で時間単位の有給休暇が使えるようになった。
半日休むまでもない用事のとき、実際に利用している。ただ、使っているのは通院ではない。
役場での手続き。銀行での用事。母を連れて行く必要があって、夜や休日では済まないもの。頻度としては、一、二か月に一度という程度だ。
これらは通院と違って、かかる時間がある程度読める。窓口が開いている時間も決まっている。だから数時間で組める。
調べた今なら、こうした用事も母のための世話として介護休暇の対象になり得ると分かる。ただ、年5日という枠は動かない。数時間で済む用事なら時間休で足りるので、この順番は範囲を知ったあとも変わらなかった。
ただし、読めるつもりでいて失敗したこともある。
役場の手続きで、持って行った書類が足りず、その日は手続きできなかった。 窓口は平日の日中しか開いていない。出直すには、また休みを取ることになる。
それ以来、事前にインターネットで必要なものを調べ、それでも不安が残るときは窓口へ電話して確認するようにしている。
確認するのは自分の分だけではない。 本人確認や印鑑、通帳など、母が用意しなければならないものもある。当日になって「聞いていない」となれば、その一回が無駄になる。だから、母にも前もって伝えておく。
つまり時間休は、用事の中身を先に確定させられる場面でしか使えない。 通院のように、待ち時間も終了時刻も相手次第の用事には向いていない。
休みを決める前に、用事を四つに割って足す

同じことを毎回考えるのは面倒なので、今は用事を四つに割って足すようにしている。
- 移動:自宅から実家、実家から目的地、そして帰り。迎えと送りを別に数える
- 待ち:相手の都合で動く部分。病院なら受付から診察までの待ち時間
- 本体:診察や手続きそのもの
- 後処理:会計、薬、別の窓口への移動
私の場合、通院はこの四つがすべて発生する。移動に1時間、待ちに1時間以上、本体と後処理でさらに1時間半以上。役場の手続きなら、移動と本体だけで収まることが多い。
足したうえで、二つだけ確かめる。
一つ目は、合計が半日を超えるか。 超えるなら終日で取る。ぎりぎりのときも終日にしている。運転して帰る前提だと、時間に追われることそのものが危ない。
二つ目は、終了時刻を自分で決められるか。 決められない用事は、時間休には向かない。相手の都合で延びれば、戻る時刻の約束が守れなくなる。
この二つで分けると、こうなる。
| 用事 | 終了時刻 | 私の選び方 |
|---|---|---|
| 通院の付き添い | 相手次第 | 終日の有給 |
| 検査の説明で家族同行を求められた日 | 相手次第 | 終日の有給 |
| 役場・銀行の手続き | 窓口時間内で読める | 時間休 |
| 目的が一つだけの短い用事 | 読める | 時間休、または午前休 |
制度名から選ぶのではなく、用事の形から選ぶ。 私が使っているのは、それだけの手順である。
使われにくさを、周知不足や遠慮だけで説明しない
私の職場では、介護休暇を使っている人は少ないように見える。
利用率を把握しているわけではないし、同僚がどの制度を使ったかを詳しく聞く立場でもない。ただ、親の用事で休むときも通常の有給休暇を使う人が多いという印象はある。私自身もその一人だ。
育児休業は、以前より職場の中で言葉にされるようになった。取得者が出ることも、引き継ぎを考えることも、特別な話ではなくなりつつある。
介護はそれと同じようには見えない。
理由を「本人の遠慮」や「職場の理解不足」に置くと、話は分かりやすくなる。だが、それだけでは説明しきれないと思う。
私自身、少し前まで理由は無給の一語で足りると思っていた。自分の場合は給与にも賞与にも出ないと分かった今は、そう単純ではないと思う。
制度の側に、二つの噛み合わなさがある。
一つは、お金である。無給の介護休暇と、賃金が出る有給休暇が並んでいれば、多くの人は後者を選ぶ。月々の給与に出る人もいれば、賞与や査定の側に出る人もいる。どこに出るかは違っても、制度への抵抗ではなく、生活を守る順番の話だ。
もう一つは、時間の単位である。介護休暇は1日か時間単位で使える。しかし現実の用事は、時間が読める用事と読めない用事に分かれる。 読める用事なら時間休で足りる。読めない用事は終日になる。年5日という枠は、そのどちらにも入り込みにくい。
制度の側の話とは別に、私自身の感覚も書いておく。
申し出の手続きは軽い。それでも、母が介護を必要とする状態だと言葉にする場面を思うと、有給休暇を出すときより一呼吸ぶん重い。使われない理由を数えるとき、この一呼吸を「遠慮」とだけ呼ぶのは、少し違う気がする。
そして、年に5日という枠は、いざという時のために残しておきたくなる。急な入院や施設の話が動いた日に、何も残っていない状態は避けたい。日取りの決まった通院を有給で埋めるのは、その裏返しでもある。
もちろん条件が変われば答えも変わる。有給休暇の残りが少ない。自分の通院や体調不良に備えて残したい。時間単位の有給を使えない。そういう場合、介護休暇を選ぶ意味は大きくなる。
有給だから使う、無給だから使わない、と固定するのではない。残日数と用事の長さ、次に起こりそうなことを並べて、その都度選ぶ。
休める回数が限られているから、一回の準備に時間をかける
母の状況は、一定ではなかった。
入院中は週に3回ほど通った。退院してすぐは私たちのマンションで約2か月を過ごし、実家へ戻ってからも仕事帰りに寄れる日は寄っていた。通院は当初週に一度、経過を見て月に一度、3か月に一度と間隔が延びた。
その1年後、肝臓への転移が見つかり、母はもう一度手術を受けた。同じ生活をもう一度繰り返すことになった(この経緯は実家整理を考え始めた理由で書いた)。
再手術から5年が経ち、今は落ち着いている。母は自分でタクシーや地域のバスを使い、月に一度通院している。私が付き添うのは年に一、二度で、退院からの1年がほぼ毎月だったころとは違う。
代わりに、週に一度は買い物に連れて行くか、様子を見に寄っている。買い物は週に一度ヘルパーにも頼んでいる。家族だけで抱えない形については介護の役割分担表に整理した。
こうして振り返ると、休みの使い方は制度名で決まっていない。その時期に、どれくらいの頻度で、何時間の不在が必要かで決まっている。
そして今の私にとって重要なのは、休める回数が限られているという前提だ。
だから一回を無駄にしない。何を持って行くか調べ、不安なら電話で確かめ、母にも前もって伝える。制度を使うかどうかより、その一回を空振りさせないことのほうが効く。
介護休暇は、使ったかどうかだけで価値を測る制度ではないと思う。
自分の職場で賃金の扱いがどこに出るのかと、どこまでの用事に使えるのかを知り、有給と比べ、必要な時期まで選択肢として残しておく。私に必要だったのは、制度の利用実績ではなく、今の用事に合う休みを選べることだった。
調べ直す前と後で、選んでいる休みは同じだ。ただ、無給の二文字だけで決めていたころと、賃金の出方も使える範囲も分かったうえで決めている今とでは、次に母の状況が変わったときの動き方が違うと思う。
次の付き添いがいつになるかは、まだ分からない。
決まったら、まず何時間かかるかを数える。そのうえで、どの休みで埋めるかを決める。順番はそれだけだ。

