私の母と妻の父は、それぞれ一人暮らしをしている。
私は母の買い物や通院、書類の確認に関わる。妻の実家では、妻ときょうだいが中心になり、私は必要なときに支える。二つの実家の予定を調整する形は、少しずつできてきた。
だが、それは「私たち夫婦が支える側にいる」ことが前提である。
もし私が入院したら。もし妻が今のように動けなくなったら。親の介護と自分たちの暮らしが重なったら。
そのときは、現在の役割分担をそのまま続けられない。今決めることと、状態が分かってから決めることを、夫婦で分けてみた。
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親の用事の分担だけでは、自分たちの老後につながらない
私たちは、二つの実家の用事が重なる暮らしを続けてきた。
夫婦で二つの実家をどう支えるかを考えたときは、どちらの親が大変かではなく、安全、期限、本人の意思、代われる人で用事の順番を決めた。
その考え方は、今も役に立っている。
ただし、私の母のことは私、妻の父のことは妻という大きな分け方だけでは、自分たちの変化に対応できない。
母の退院前、妻は私と一緒に病院の説明を聞いてくれた。その場面では、「私の親だから私だけで聞く」と分けない方がよかった。
一方、妻の父の暮らしには、妻側の親子ときょうだいの時間がある。私が前へ出ず、必要な車や荷物、調べものを担う方が合う。
役割は、親との続柄だけでは決まらない。その時に誰が説明を聞けるか、動けるか、本人が誰に話したいかで変わる。
この「変わる」を、自分たちの老後にも入れておく必要がある。
夫婦のどちらかが動けない日を先に考える

今の暮らしは、夫婦二人が動けることで成り立っている。
先日、妻の父が朝起きたときに体調を崩し、救急車を呼ぼうか迷ったという。その後は落ち着き、大事には至らなかった。ペースメーカーを入れていることもあり、こうした朝が今後まったく来ないとは考えにくい。妻の実家は妹たちと分担ができているが、妹たちは子育ての途中である。何も言わずに時間を作ってくれているだけで、余裕があるわけではない。
妻はフルタイムの派遣社員として働いており、私より帰宅時間が安定している。私は仕事と実家の用事の間で予定を組む。日々の役割は、長い時間をかけて自然にできたものである。
しかし、自然にできた役割ほど、している本人が動けなくなったときに見えにくい。
そこで、「今、どちらがしているか」だけでなく、一人が動けない日にどうなるかを並べる。
| 場面 | 最初に確かめること | 今から共有できること |
|---|---|---|
| 一人が急に入院する | 医療機関、連絡先、当面止まる用事 | 情報の保管場所と連絡順 |
| 一人が親の用事に行けない | 期限と、他の家族やサービスに代われるか | 予定表と主な相談先 |
| 収入が変わる | 毎月続ける支払いと、止められる支出 | 家計の大きな入り口と出口 |
| 二人とも動きにくくなる | 家族外の相談先と、急ぎ度 | 子どもに伝える最小限の情報 |
この表は未来の介護を予測するものではなく、今の役割が一つ止まったとき、どこから確認を始めるかを共有するためのものである。
「休みやすい働き方」は、印象ではなく条件で見る

妻がフルタイムの派遣で働いているのは、急に休まなければならない日が来ると考えているからだと思う。正社員は責任が重くて休みにくい、という以前からの受け取り方が、その前提にある。
私は、正社員の方が受けられるものが多いと考えて、そう話したことがある。頭にあったのは、将来の年金と、私に何かあったときのことだった。だが、それは「もっと働け」という意味で届いてしまった。条件の話をしたつもりが、働き方への評価として受け取られた。言い方を選ばなかったのは私である。
それ以来、二つを分けて見るようにしている。
休みやすさは、雇用の形だけでは決まらない。職場の人数、代われる人がいるか、任されている仕事の重さ、言い出しやすさ。妻が感じている休みやすさは、この現場の感覚である。
一方、休んだあとに残るものは、制度と加入の条件で決まる。厚生年金や雇用保険は、正社員かどうかではなく、加入しているか、報酬がいくらか、期間がどれだけかで差が出る。
介護のための休みも、正社員だけの制度ではない。介護休業は対象家族1人につき3回、通算93日まで取れる。対象は日々雇用を除く労働者で、有期雇用の場合は契約期間についての条件がつく(厚生労働省の介護休業の案内)。2025年4月からは、介護に直面したと申し出た人へ、制度と申出先、給付金のことを個別に知らせることが会社の義務になった(法改正のポイント)。
ただし、知らせが届くのは申し出たあとである。介護休暇があるのに有給で休む理由を書いたときの私も、名前は知っていて中身は読んでいなかった。同じ働き方でも、知っているかどうかで取れる休みは変わる。
だから、夫婦で決めたのは働き方を変えることではない。それぞれの勤め先で、次の三つを確かめることにした。
- 介護休業と介護休暇が自分の契約でどう扱われるか、申し出る先はどこか
- 健康保険、雇用保険、厚生年金に、どの条件で入っているか
- 急に休む日の連絡の相手と手順
役割分担は人の名前ではなく、判断の順番で残す
親の介護については、既に主担当、代替、家族外の相談先、未決定を並べた役割分担表を作った。
その表は、今の母の暮らしを家族だけで抱えないためのものである。
夫婦の老後を考える表には、もう一つ欄が必要になる。
「役割を組み替える合図」である。
例えば、私が母の用事を主に担うと書いても、私自身が入院したらその分担は使えない。そのときは妻へ自動的に全て移すのではなく、母本人、ヘルパー、医療・介護の相談先、他の交通手段へ分け直す。
人の名前だけで役割を残すと、その人が動けないときに表全体が止まる。
だから、夫婦で決めるのは、永久的な担当者ではない。
- 安全と体調を確かめる
- 本人の意思と期限を確かめる
- 現在の担当が動けるかを確かめる
- 動けなければ、家族内と家族外の代わりを分けて探す
- 二人で抱えられないときは、相談先へつなぐ
この順番なら、夫がする、妻がするという固定から始めずに済む。
親のお金と、夫婦の生活の土台を同じにしない
介護の話をすると、お金の話を避けにくい。
親の通院、日々の支援、家の管理、これからの介護。支出の時期と金額は読めない。
それでも、私たち夫婦の老後資金まで一つにし、「必要になったらそこから出す」とするのは危ういと感じている。
私は、母に長生きしてほしい。同時に、母の暮らしを支え続ける年数は決められない。この二つは矛盾する気持ちではなく、生活と資金の条件を考えるうえで両方とも事実である。
お金に縁遠く暮らしてきた自分の資金を整理したとき、増やすことより、今の暮らしから出ていくお金を分かるようにすることから始めた。
夫婦で話すときも、全ての残高を一度に表へ出すことから始めない。まず、次の三つを分ける。
- 親本人の収入や資産から負担するもの
- 夫婦の今の家計から支えているもの
- 夫婦の暮らしと老後のために残すもの
これは、親のためにお金を出さないと決める線引きではない。
どこから出しているかを夫婦のどちらか一人の記憶に任せず、次の判断が必要になったときに立てる地面を同じにするためである。
子どもは、今からの主担当にしない
子どもたちは独立している。
家族である以上、急なときに連絡する場面はある。だが、それと、将来の介護や家計の主担当にすることは別である。
子が独立して家族の形が変わったとき、私は「子に頼らない」ことを考え始めた。
今は、子どもへ何も話さないのではなく、伝える範囲を小さく分けたいと考えている。
今伝えるのは、次のような情報でよい。
- 夫婦のどちらに先に連絡するか
- 二人とも連絡できないとき、次に確認する人や場所
- 大切な書類と連絡先の所在
- 今の時点では、子どもへ任せると決めていないこと
口座番号、暗証情報、資産の詳細を日常的に全て共有することと、必要な情報の所在を伝えることも分ける。
子どもの名前を役割表に書けば、空欄は埋まる。だが、本人の了承なく書いた役割は、実際の備えにはならない。
それよりも、まず夫婦二人で分かる形を作り、二人で扱えないことだけを、子どもや家族外の人へ確認する順番にしたい。
今決めることと、状態が変わってから決めることを分ける

夫婦で老後を話すとき、将来の結論を全て出す必要はない。
どちらがどちらを介護するのか。自宅に住み続けるのか。施設を選ぶのか。子どもにはどこまで頼むのか。
これらは、体の状態、判断できること、住まい、家計、使えるサービスで答えが変わる。今二択へ絞り込んでも、必要なときにその答えが合うとは限らない。
反対に、今でも決められることはある。
| 今決めること | 今は決めないこと |
|---|---|
| 急なときの連絡順 | 将来の住まいを一つに固定すること |
| 医療・保険・家計の情報がある場所 | 夫婦のどちらが介護を担い続けるか |
| 一人が動けないときの相談の入り口 | 子どもが将来引き受ける役割 |
| お金を三つの範囲に分けて見ること | 介護に使う最終的な金額や期間 |
| 話を聞き直す時期 | 変化後も今の分担を守り続けること |
大切なのは、結論の数ではない。
状態が変わったときに、もう一度話すことを決めておくことである。
夫婦の話し合いは、一枚の完成より次の聞き直しまで
退職後は、夫婦が同じ家で過ごす時間が増える。ただし、一緒にいる時間と、同じことをする時間は違う。介護やお金の話し合いも、二人が同じ答えを出すためのものではない。
私は自分の母のことを重く見る。妻には妻の父と家族の時間がある。自分の体、働き方、老後の希望についても、二人の考えが常に同じとは限らない。
それでも、次に何を確かめるかは共有できる。
最初の話し合いでは、次の三つだけを書く。
- 一人が動けないとき、最初に止まること
- そのときに確認する情報と相談先
- 次に聞き直す時期
全ての役割や金額を埋める必要はない。空欄があっても、未確認だと二人が分かっていれば、次に話す題目になる。
夫婦の老後の役割表は、将来を決め切る紙ではない。
今の分担が使えなくなったとき、二人で次の形を考え直すための入り口である。
