退職すれば、給与が止まる。
そこまでは分かっていた。しかし、給与明細から引かれていた健康保険料と住民税が、どの日から、どんな形で自分の支払いに変わるかは、きちんと理解していなかった。
私は長く会社員を続け、税金と社会保険の手続きを勤め先に任せてきた。50歳で転職したときも、次の仕事が決まっていて、働かない期間の支払いを考える機会がなかった。自分で加入先を選び、納付書で払った経験はない。
調べる手段は、今はいくらでもある。制度の説明も、比較の記事も、計算の解説も出てくる。ただ、読んでも理解が追いつかない。用語が前提のまま並び、自分の場合はどれに当たるのかが分からないまま、ページを閉じたことが何度かあった。
今回は、定年後の健康保険の選択肢と、退職後も続く住民税の支払い方を調べた。金額の早見表を作るのではなく、退職日から最初の納期限までを、一枚の予定表に置くための整理である。同じところで止まる人が、同じ手間をかけずに済む形にしておきたい。
給与明細から消えるのではなく、自分で払う形に変わる
会社員でいる間、健康保険料や住民税は給与明細に出てくる。
金額を見ることはあっても、支払日を決めたり、納付書で払ったりする必要はない。手続きは会社が進め、給与から引いた残りが口座に振り込まれる。
その流れに長く慣れていた。
退職後は、健康保険も住民税もなくなるわけではない。加入先と支払い方が変わる。
この違いを「支出が増える」とだけ受け取ると、不安が大きくなる。実際には、今も負担しているお金が、目に見える形で家計へ出てくる部分がある。
お金のことを勤め先任せにしてきた自分を振り返った記録で、私は増やす方法より、毎月出ていくお金から整理したいと書いた。退職後の保険料と住民税は、その最初に置く数字になる。
健康保険は、退職日の翌日からの加入先を決める

退職後、間を置かず次の会社の健康保険に入るなら、新しい勤め先で手続きする。
それ以外に、主に三つの選択肢がある。
| 選択肢 | 確認先 | 先に見ること |
|---|---|---|
| 今までの健康保険を任意継続する | 加入中の健康保険の保険者 | 加入条件、申出期限、保険料、扶養家族 |
| 国民健康保険に入る | 住所地の市区町村 | 保険料の試算、必要書類、届出方法 |
| 家族の健康保険の被扶養者になる | 家族の勤め先または健康保険の保険者 | 収入等の被扶養者条件、必要書類 |
協会けんぽも、退職後の選択肢を任意継続、国民健康保険、家族の被扶養者の三つとして案内している。保険料などを比べ、加入条件を確認して手続きする必要がある。協会けんぽの「退職後の健康保険」で、三つの特徴を確認できる。
大切なのは、「任意継続と国保のどちらが得か」を一般論で決めないことだ。
調べるほど、答えは自分の条件からしか出ないと分かってきた。読んだ説明が自分に当てはまるかどうかは、私が読み込んだだけでは確かめきれない。だから上の比較にも、金額より先に確認先を並べた。
任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額等が関係する。国民健康保険は前年の所得などと世帯の人数が関係し、算定方法は市区町村で異なる。家族の被扶養者になれるかも、実際の収入と保険者の確認が必要だ。
退職前に三つを比べるなら、今の給与明細の天引き額ではなく、それぞれの確認先から自分の条件で試算を取る。
任意継続は20日、国民健康保険は14日を先に覚える
健康保険の比較で、金額より前に見ておきたいのが申出期限である。
協会けんぽの任意継続は、次の二つが加入条件とされている。
- 資格喪失日の前日までに、健康保険の被保険者期間が継続して2か月以上ある
- 資格喪失日から20日以内に、資格取得申出書を提出する
協会けんぽ以外の健康保険組合などに加入している場合は、今の保険者へ直接確認する。協会けんぽの条件は、任意継続の加入条件に明記されている。
国民健康保険の被保険者になったときは、14日以内に住所地の市区町村へ届け出る。必要書類と申請方法は自治体で確認が必要だ。厚生労働省の国民健康保険の加入・脱退案内でも14日以内と案内されている。
申出が遅れても、その日から加入になるとは限らない。国保は資格取得日まで遡って保険料が賦課される場合がある。遅れてよい理由にはならない。
私は、退職日を決めたら、カレンダーに20日後と14日後を先に書くことにした。保険料の試算はその前に取る。
住民税は、退職後に収入が減ってもすぐには減らない
住民税を調べると、退職後の家計で注意したい理由が見えた。
個人住民税は、原則として前年の所得をもとに計算される。給与所得者は、通常は6月から翌年5月まで、毎月の給与から特別徴収される。
そのため、退職して給与が減っても、今年度の住民税には前年の所得が反映されている。退職後の収入だけを見て支払額を想像すると、見込みがずれる。
また、退職した年に給与所得があれば、翌年度の住民税にその所得が反映される。「退職月で給与が終わるから、税金もそこで終わる」とはならない。
自分の正確な税額は、住民税の決定通知書と市区町村の案内で確認する。ここでは一律の金額を出さない。
老後の収入・毎月の支出・一時費用を四つの欄で整理した記事では、一度出した数字を答えにせず、前提を更新すると書いた。住民税は、当年の収入欄ではなく、前年の所得から続く支出として別に置く必要がある。
退職する月で、住民税の残りの払い方が変わる

給与から住民税を特別徴収されている人が年の途中で退職すると、残った税額をどう払うかが変わる。
東京都主税局の案内では、大きく次のように分かれている。
| 退職時期 | 残りの住民税の扱い |
|---|---|
| 6月1日〜12月31日 | 原則は普通徴収へ切り替わる。本人が申し出れば、退職金や最後の給与等から一括徴収される場合がある |
| 翌年1月1日〜4月30日 | 5月31日までに支払われる給与や退職手当等が残税額を超える場合などは、原則として一括徴収 |
| 再就職し特別徴収を続ける場合 | 新しい勤め先で引き続き特別徴収を申し出る場合がある |
細かな条件と手続きは、勤め先の給与担当と、1月1日時点の住所地の市区町村に確認したい。東京都主税局の特別徴収にかかる手続き案内では、年の途中で退職したときの特別徴収と普通徴収の扱いも説明されている。
退職月によっては、最後の給与や退職金から住民税がまとめて引かれ、手取りが想定より小さく見えることがある。普通徴収に切り替われば、後日送られる納税通知書で自分が納める。
どちらが得かというより、いつどの口座から出るかが違う。退職月を決めるときは、最後の給与の手取りだけでなく、住民税の残額と徴収方法も聞いておく。
退職後の最初の1年は、保険料と住民税が重なって見える
退職後の家計を、退職後の収入だけで作ると、最初の1年の負担を見誤りやすい。
国民健康保険の保険料は前年の所得などが関係する。住民税も前年の所得をもとに計算される。当年の収入が減った後も、前年の収入を反映した負担が同じ時期に現れることがある。
ただし、任意継続と国民健康保険の保険料は計算方法が違う。家族の被扶養者になれるかどうかでも変わる。そのため、「前年の年収がこれなら、必ずこの額」とは言えない。
私が作りたいのは、正確な10年予測ではない。退職月から翌年6月ごろまでの、納付の予定表である。
| 時期 | 健康保険 | 住民税 | 確認先 |
|---|---|---|---|
| 退職前 | 任意継続・国保・扶養の試算 | 当年度の残税額と徴収方法 | 保険者、市区町村、勤め先 |
| 退職直後 | 選んだ保険の手続き | 最後の給与等からの一括徴収の有無 | 勤め先、保険者、市区町村 |
| 退職後の数か月 | 保険料の納期限と納付方法 | 普通徴収なら納税通知書の期限 | 手元の通知書 |
| 翌年6月ごろ | 就労・収入の変化を反映して再確認 | 退職年の所得を反映した新しい税額 | 保険者、市区町村 |
私は金額の右側に、支払い日と支払い口座を書くつもりだ。残高はあっても、普段使わない口座のままでは納期限に間に合わないことがある。
退職前に、四つの書類と三つの試算を集める

退職後の保険料と住民税を確認するために、退職してからすべてを探し始める必要はない。
退職前に、次の四つを手元で確認する。
- 最新の給与明細
- 最新の住民税の決定通知書
- 現在の健康保険の保険者と連絡先が分かるもの
- 勤め先から案内される退職日と資格喪失日、住民税の扱い
次に、三つの試算を取る。
- 現在の健康保険を任意継続した場合の保険料
- 住所地の国民健康保険に入った場合の保険料
- 家族の健康保険の被扶養者条件に該当するか
保険料の比較では、本人分だけでなく、家族が被扶養者になっているならその扱いも確認する。国民健康保険は世帯の加入者数が保険料に関係するため、本人だけの金額を比べるとずれる可能性がある。
退職金の使い道を考えるときも、健康保険料と住民税を先に別枠にする。退職金を「入ったら考えるお金」にしないための整理とつなげると、退職金を初年度の固定費で思いのほか減らすことを防ぎやすい。
支払額より、最初の納期限を一枚に書く
退職後の健康保険と住民税を調べ、私の見方が変わった。
これまでは、定年後のお金を、年金額と退職金の残高で見ようとしていた。しかし、退職直後に困りやすいのは、長期の資金額より、申出期限と最初の納期限かもしれない。
退職後の働き方を比べるときも、給料と自由時間だけでは足りない。上の保険料と住民税を含めた12か月分で見る必要がある。再雇用・転職・働かないを同じ四つの軸で比べた記事と、この支払予定表を一組にしたい。
私の退職日が決まったときに、最初に書くのは次の四つである。
- 任意継続を選べる最後の日
- 国民健康保険の届出期限
- 住民税の残額と徴収方法
- 最初の保険料と住民税の納期限
金額は、退職日、所得、家族、加入先、住所地で変わる。記事の例を自分の金額にせず、保険者、市区町村、勤め先へ確認する。
この手続きは、多くの人が一度か二度しか通らない。時間をかけて調べても、覚えた頃には使い終わっている。それでも、退職を前にした人は同じ道を一度は通る。分かりにくかった順番と期限を、調べた側の言葉で残しておく。
大きな老後資金の計算より先に、退職日の翌日から何を選び、いつ払うかを書く。会社の給与明細から、自分のカレンダーへ移すことが、私の退職準備の最初の一枚になる。

