介護施設への入居が決まったら、家族は何を持っていけばよいのだろう。
衣類、タオル、洗面用品、薬、保険証、家具。思いつく物を並べるだけでも、リストはすぐに長くなる。けれど、施設によって居室の広さも、備え付けの物も、持ち込みの決まりも違う。一般的な持ち物リストをそのまま買い物表にすると、使えない物や重複する物が出てきそうだ。
母はまだ施設へ入る段階ではなく、見学先も決まっていない。それでも、母に必要な物を考えると、持ち物は「何個必要か」だけでは決められないと分かる。ストマ用品をどう保管するか。自分で続けている洗濯は施設でもできるのか。家族との音声通話に使う電話は、どこで充電するのか。暮らし方と一緒に確かめる必要がある。
今回は、一般的な一覧を増やすのではなく、施設への確認、本人の希望、家族の補充を一枚にまとめる方法を考えた。
先に施設の持ち物表をもらい、家の一覧と分ける
施設の種類ごとの目的や入居条件は介護施設の種類と費用で調べたので、ここでは持ち込みの決まりに絞る。同じ個室でも、備え付けの物と持参する物の線引きは施設ごとに違う。
最初にするのは買い物ではなく、候補施設から書面をもらうことだと思う。
- 施設が用意する物
- 入居者が持参する物
- 希望すれば持ち込める物
- 持ち込めない物
- 大きさや数量に制限がある物
- 施設指定品を購入する物
- 名前を書く必要がある物
厚生労働省の高齢者向け住まいを選ぶ前の消費者向けガイドブックも、住まいの仕様、利用できるサービス、費用は住まいごとに異なるため、それぞれの事業者へ確認するよう案内している。
たとえば、寝具、カーテン、収納家具、テレビ、冷蔵庫、電気ケトルを持ち込めるかは、居室設備や安全上の決まりによって変わる。衣類の洗濯も、施設のサービスに含まれる場合、外部へ委託する場合、家族が持ち帰る場合がある。
介護施設の見学で確認したいことで作った質問表に、持ち物と補充の欄を足す。口頭で聞いた内容は、誰がいつ答えたかを残し、入居案内や管理規程と食い違わないかを見る。
持ち物を四つの役割に分ける
家の中の物を見ながら考えると、すべてが「持っていく物」か「捨てる物」の二択になってしまう。
そこで、入居前の持ち物を四つに分ける。
| 分け方 | 入れる物 | 確認すること |
|---|---|---|
| 入居手続きに使う物 | 本人確認、保険、介護、医療、契約に関する書類 | 原本か写しか、いつ誰へ渡すか |
| 初日から必要な物 | 衣類、履物、洗面用品、連絡手段、継続して使う用品 | 数量、名前、保管場所 |
| 本人の暮らしを続ける物 | なじみのある日用品、趣味、写真など | 本人が望むか、居室に置けるか |
| 後から補う物 | 季節の衣類、予備、使用後に必要と分かる物 | 補充する人、連絡方法、届け方 |
手続き書類は、日用品を詰めた箱へ混ぜない。施設へ預ける原本、本人が持つ物、家族が保管する物を分け、受け渡した日を記録する。暗証番号やパスワードを持ち物表へ書くこともしない。
現金や通帳は、何を持たせるかより先に、誰が管理するかの取り決めになる。厚生労働省の有料老人ホームの設置運営標準指導指針では、入居者の金銭や預金の管理は入居者自身が行うことを原則としている。本人が特に依頼した場合や、判断能力が十分でないと認められ身元引受人等の承諾を得た場合に限り、施設側が管理することもやむを得ないとされている。その場合も、依頼や承諾を書面で確認し、具体的な管理方法と定期的な報告を管理規程等で定めるとされている。居室に置く小銭をどうするかも、口頭で済ませない。
本人の暮らしを続ける物は、家族が「落ち着くだろう」と選ぶのではなく、本人に尋ねる。家族にとって思い出深い物でも、本人が居室へ持っていきたいとは限らない。反対に、家族には何でもない小物が、本人には毎日の手順を保つ物かもしれない。
医療・介護用品は、商品名より管理方法を伝える

母が日常的に使う物にはストマ用品がある。毎日飲む処方薬はないが、用品の保管と交換、定期的な通院は続いている。
もし母が施設へ入るなら、用品を箱に詰めて渡すだけでは足りない。
- 本人が普段使っている用品
- 一回に使う組み合わせ
- 予備をどのくらい置けるか
- 高温、多湿、直射日光を避けられる保管場所
- 使用後の処理方法
- 不足に気づく人と補充を頼む人
- 本人が扱いにくい日に相談する職種
用品の扱いをどこまで施設側へ頼めるかは、施設の類型や職員体制、本人の状態で変わる。家族側で「これまで自分でできたから大丈夫」「施設なら全部してもらえる」と決めず、本人の今の手順を伝えたうえで確認する。
薬がある場合も、薬袋をまとめて持っていくだけではなく、処方内容、飲む時間、残数、処方した医療機関、次の受診日をそろえる。一人暮らしの親の薬管理で使っている一覧を、施設の管理方法に合わせて引き継ぐ。市販薬やサプリメントも、本人や家族の判断だけで居室へ置かず、事前に相談する。
医療情報は必要な相手へ必要な範囲で渡す。見学の初期段階から、本人の詳しい情報や写真を複数の施設へ配ることは避けたい。
衣類は枚数より、洗濯と着替えの流れで決める

衣類を何枚持っていくかは、洗濯の頻度で変わる。
施設内で洗うのか、外部委託なのか、家族が持ち帰るのか。洗濯から戻るまで何日かかるのか。汚れたときの着替えを含め、何日分の予備が必要か。先にこの流れを聞く。
母は今も、自分で洗濯とできる範囲の掃除を続けている。施設へ移ったとき、本人が洗濯物をたたむことや、身の回りを整えることまで一律に取り上げる必要はないと思う。一方で、共用の洗濯機を自由に使えるとは限らない。続けたいことを伝え、施設の安全と運用の中でどこまでできるかを相談する。
衣類は、次の点も確認する。
- 着脱しやすく、本人が普段着ている形か
- 室温と季節に合うか
- 洗濯方法に合う素材か
- 一枚ずつ名前を書く場所が決まっているか
- 靴は室内用、外出用、予備のどこまで必要か
- 入れ替える季節の衣類を家族がどこに保管するか
新しい服を一式そろえるより、本人が着慣れた物を中心にする。ただし、長い裾、滑りやすい履物、傷んだ衣類などは、本人と施設側の意見を聞きながら見直す。
名前は本人の尊厳にも関わる。目立つ表面へ大きく書くと決めつけず、施設の指定位置を聞く。入れ歯の容器、眼鏡ケース、充電器など、衣類以外にも他の人の物と混ざりやすい物がある。
家具や家電は、居室の図面に置いてから決める

空いた場所を見ると、家族は棚や椅子を足したくなる。だが、施設の居室は寝る場所だけではなく、職員が支援に入り、本人が移動する場所でもある。
大きな物を運ぶ前に、居室の図面へ置いてみる。
- ベッドからトイレ、洗面、入口までの通路を残す
- 扉、引き出し、車いすや歩行器を使う可能性を考える
- コンセントの位置と延長コードの可否を確認する
- 転倒や落下につながる置き方を避ける
- 退去時に家族が搬出できる大きさかを見る
テレビや電話は、置けるかだけでなく、契約、料金、音量、充電、故障時の対応まで確認する。
母が家族と話す手段は、ほぼ音声通話である。持ち物として考えると、本体より充電器とコードの扱いが問題になる。居室のどこで充電するのか、コードが通路を横切らないか、本人が自分で抜き差しできるか、予備を家に残すか。連絡の取り決めそのものは見学時に聞くことなので、ここでは置き場所の話として決めておく。
連絡先は、緊急時の連絡先を親と共有したときに作った一覧を、居室へ置ける一枚に写す。本人が見て掛けられる字の大きさか、職員が居室ですぐ見つけられる場所か。持ち物表では、紙一枚として数える。
最初から全部を持ち込まず、補充の担当を決める
入居初日に居室を完成させようとすると、荷物が増える。
私は、施設が指定する最初の期間に必要な量をそろえ、使ってから足す方がよいと思う。季節外の衣類、予備の日用品、迷っている家具は家に残し、入居後に本人と職員へ確かめる。
ただし、「足りなければ家族が持ってきます」で終えると、家族がいつでも動ける前提になる。
入居先はまだ決まっていないが、母の生活圏で探すなら、私の家から見て実家と同じ方面になる。平日に仕事や出張があれば、足りない物が出るたびに車を出すことはできない。施設で購入できる物、届いた荷物を受け取ってもらえるか、家族が運ぶ物、間に合わないときに代わりになる物を分けておく。
補充表には、品名だけでなく次を入れる。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 残数を確認する人 | 本人、職員、家族の誰か |
| 連絡する時点 | 残り何個、何日分になったら知らせるか |
| 注文する人 | 家族、施設、外部事業者 |
| 支払方法 | 月額内、立て替え、本人負担、家族負担 |
| 届ける場所 | 居室、受付、施設指定の保管場所 |
| 代替できない物 | 医療・介護用品など、事前確認が必要な物 |
安い日用品でも、購入代行や洗濯、保管が別料金になる場合がある。老人ホームの費用は月額だけではないで作った表へ、家族が補充する物と施設へ頼む物を移しておく。
持っていかない物を、入居日に処分しない
施設へ持っていかない物が、すぐ不要になるわけではない。
入居直後は、本人も家族も新しい暮らしが続くか分からない。居室で必要になる物も、使わなくなる物も出てくる。家に残った衣類や家具を、引っ越しの勢いで一度に処分すると戻せない。
残した物は、少なくとも次の三つに分ける。
- 本人の確認なしでは動かさない物
- 入居後の様子を見て持っていく可能性がある物
- 写真と一覧を残したうえで、後日処分を相談する物
通帳、印鑑、契約書、保険証券、登記に関する書類は、入居日の荷造りとは別の日に扱う。運ぶ物を詰めながら片手間に開けると、どこへ置いたか分からなくなる。価値の分からない物や、家族の思い出がある物も同じで、入居日の作業へ混ぜない。
施設入居は、本人の暮らす場所を移すことであって、本人の持ち物を家族が自由に決めてよい日ではないと思う。
一枚の持ち物表に、確認と補充まで残す
私が作るなら、持ち物表は次の七列にする。
| 物 | 施設の用意 | 持参数 | 保管場所 | 本人の希望 | 補充する人 | 未確認 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 衣類 | 洗濯方法を確認 | 施設指定に合わせる | 居室収納 | 着慣れた物を中心に相談 | 家族 | 季節交換の時期 |
| 電話・充電器 | 通信環境を確認 | 各一 | 施設指定 | 音声通話を続けたい | 家族 | 夜間の保管 |
| 継続用品 | 対応範囲を確認 | 必要期間分 | 適切な保管場所 | 本人の手順を確認 | 家族と施設で分担 | 残数連絡の時点 |
空欄はゼロではなく「未確認」と書く。確認した日と相手も残す。
持ち物リストは、忘れ物をなくすだけの表ではない。本人が施設で何を続けたいか、施設が何を担い、家族がどこを補うかを決める表である。
母にはまだ入居先も入居日もない。今できるのは、母が毎日使っている物を勝手に選別することではなく、用途を聞き、施設へ尋ねる項目に変えることだ。
定時のあとの時間を使って、まずは母が今日一日で手に取った物を、思い出せる範囲で書き留めるところから始めようと思う。

