親の介護と仕事の両立を考えるとき、いつも頭に浮かぶ言葉がある。
介護離職だ。
自分にはまだ関係ないと思っていた時期もある。母の通院に付き添い、買い物を手伝い、薬局や役所の手続きを確認する。その一つひとつは、何とか仕事の合間に収めてきた。
だが、親の老いは、こちらの仕事の予定に合わせて進んでくれるわけではない。
通院が増える。急な体調不良がある。介護サービスの手続きが必要になる。施設を考える時期が来るかもしれない。そうなったとき、有給休暇だけで対応できるのか。
今回は、介護離職を防ぐために、介護休業制度や介護休暇を調べてみた。制度を使いこなせているわけではない。だが、知らないまま仕事を辞める方向へ追い込まれないために、今のうちに整理しておきたい。
介護離職は、突然の決断ではなく積み重なりで近づく
介護離職という言葉を聞くと、親の介護が急に大変になり、会社を辞めざるを得なくなる場面を想像していた。
だが、母を支えながら感じるのは、もっと小さな積み重なりだ。
通院のたびに休む。
薬局へ寄る。
役所の手続きを確認する。
ヘルパーや配食サービスのことで連絡を取る。
書類が届けば、実家へ行ったときに一緒に見る。
一つひとつは、会社を辞めるほどの出来事ではない。だが、それが続くと、仕事の予定に少しずつ穴が空く。
私の場合、転職直後に母の通院付き添いが重なった。有給休暇はまだなく、休む日は欠勤になった。長い会社員生活の中で、欠勤という言葉には縁がなかったので、気持ちの面でも小さくない負担だった。
そのときは、目の前の通院をこなすことでいっぱいだった。
朝、実家へ迎えに行く。病院で待つ。医師の説明を聞く。会計を済ませる。薬局に寄る。実家へ送り届ける。帰ってから仕事のことを考える。
これを何度か繰り返すうちに、親の用事は「私用」という言葉だけでは片づけられないと感じるようになった。
親を支えることは、家族の問題であると同時に、働き方の問題でもある。
ここを個人の我慢だけで処理していると、いつか「もう仕事を続けるのは無理だ」というところまで行ってしまうのではないか。
介護離職は、ある日突然ではなく、小さな無理を制度や周囲に出さずに抱え続けた先に近づくのだと思う。
介護休業は、自分で介護を抱え込むためだけの制度ではない

介護休業という言葉は知っていた。
ただ、正直に言えば、私は少し誤解していた。
介護休業とは、親の介護を自分で長く引き受けるために休む制度だと思っていた。会社を休んで、家で親の面倒を見る。そういう印象が強かった。
しかし、厚生労働省の介護休業制度の説明を読むと、見方が変わった。
介護休業は、対象家族一人につき、通算93日まで、3回に分けて取得できる制度だ。対象家族には父母や配偶者の父母などが含まれる。休業開始予定日の2週間前までに、事業主へ申し出ることが基本になる。
ここで大事なのは、93日という期間を「自分が介護を全部やる期間」と考えないことだと思った。
むしろ、介護の体制を整える時間として使うものなのではないか。
たとえば、親が急に入院した。
退院後の生活をどうするか決めなければならない。
介護認定を受ける。
ケアマネジャーと相談する。
ヘルパーや配食、見守り、通院の足を組み合わせる。
実家の中を安全に整える。
兄弟姉妹や親族がいる場合は、役割分担を話す。
こうしたことは、平日の昼間に動かなければならないことが多い。仕事が終わってから少しずつ進めるには限界がある。
介護休業は、親の世話を家族だけで抱え込むためではなく、仕事を続けるための介護体制を作る時間として見る方が自然だと思う。
私の母は、今すぐ介護休業が必要な状態ではない。
だが、今後、退院後の生活を組み直す場面や、施設を考える場面が来ないとは言えない。そのときに制度を初めて調べるより、今のうちに言葉だけでも知っておく意味はある。
介護休暇は、通院や手続きに使える短い休み
介護休業と似た言葉に、介護休暇がある。
こちらは、長く休んで体制を整えるというより、スポットで休む制度だと理解した。
厚生労働省の説明では、介護休暇は、要介護状態にある対象家族の介護や世話をするための休暇だ。通院の付き添いや介護サービスの手続き代行、ケアマネジャーとの短時間の打ち合わせにも使えるとされている。
日数は、対象家族が一人なら1年に5日まで。二人以上なら1年に10日まで。取得単位は1日または時間単位だ。
この「時間単位」というところは、私には現実的に感じた。
親の用事は、一日休むほどではないが、数時間では必要なことがある。
ケアマネジャーとの面談。
役所への申請。
薬局での相談。
病院の説明だけ同席する日。
サービス事業者との顔合わせ。
こうした予定は、仕事の合間に無理やり入れようとすると、どちらも中途半端になる。
もちろん、会社の規程や職場の運用によって、実際の使いやすさは変わる。介護休暇中が有給か無給かも会社の規定による。だから、制度名を知っただけで安心するのは早い。
それでも、有給休暇しか選択肢がないと思い込むよりは、介護休暇という枠があると知っている方がいい。
私が母の通院に付き添っていたころ、この制度をきちんと理解していたかと言えば、そうではなかった。
休むなら有給。なければ欠勤。そういう単純な考えだった。
だが、親の通院や手続きは、これからも続く。今後は、仕事の予定を調整するときに、有給だけでなく、介護休暇という言葉も選択肢に入れておきたい。
短時間勤務や残業免除も、早めに知っておきたい

介護と仕事の両立は、休むことだけで成り立つわけではない。
むしろ、日常的には「働き方を少し変える」ことの方が大きいかもしれない。
厚生労働省の介護休業制度の特設サイトには、介護休業や介護休暇だけでなく、短時間勤務等の措置、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限といった制度も並んでいる。
言葉だけ見ると、少し硬い。
だが、自分の暮らしに置き換えると分かりやすい。
定時で帰れる日を確保する。
残業を免除してもらう。
深夜の勤務や遅い時間の対応を避ける。
勤務時間を短くする。
そうした働き方の調整によって、親の夕方の様子を見に行けるかもしれない。役所や薬局への連絡をする時間が作れるかもしれない。週に一度の実家訪問を続けやすくなるかもしれない。
介護は、子育てと違って、始まりがはっきりしにくい。
親が入院した日から介護が始まるわけでもない。認定を受けた日から急に支援者になるわけでもない。電話に出ない、買い物が難しい、薬が合わない、書類が読めない。そういう小さな変化の中で、少しずつ家族の役割が増えていく。
だからこそ、制度を使うタイミングも分かりにくい。
まだそこまでではない。
自分が行けば何とかなる。
周囲に言うほどではない。
そう考えているうちに、仕事の予定と親の予定がぶつかり続ける。
私も、まだ会社に介護のことを大きく相談しているわけではない。管理職として、簡単に自分の都合ばかりを言えない感覚もある。
それでも、親の老いは隠してもなくならない。
いざというときに制度名すら知らない状態では、相談の入口に立つことも難しい。人事や上司に話す前に、自分がどの制度を何のために確認したいのかを、少し整理しておきたい。
2025年から、会社側にも周知や意向確認が求められている
制度を調べていて、もう一つ気になったことがある。
育児・介護休業法は改正され、2025年4月1日から、介護離職防止のための個別の周知や意向確認、雇用環境整備などが事業主の義務になっている。
つまり、介護は完全に個人だけの問題として扱う時代ではなくなってきている。
会社が制度を知らせる。
労働者が介護に直面したとき、利用できる制度を個別に説明する。
相談しやすい環境を整える。
40歳前後の労働者へ早い段階で情報提供する。
こうした方向が示されている。
もちろん、制度があることと、職場で使いやすいことは別だ。
会社の規模、職場の人員、仕事内容、繁忙期、上司や同僚の理解によって、実際の使い方は変わる。制度があっても、言い出しにくい職場はあるだろう。管理職や専門職のように、自分が抜けると仕事が止まりやすい立場では、なおさら考えることが増える。
それでも、法律上の制度として用意されていることには意味がある。
親の介護で休むことを、個人のわがままのように抱え込まなくていい。
働きながら親を支える人が増えているから、制度が整えられている。
そう理解するだけでも、気持ちは少し変わる。
私の世代は、会社に迷惑をかけないことを強く意識して働いてきた人が多いと思う。休むこと、早く帰ること、家庭の事情を職場に出すことに、どこか後ろめたさがある。
だが、親の介護は、個人の努力だけで吸収できるものではない。
仕事を続けるために、早めに情報を出す。自分が突然いなくならないように、事前に仕事を分ける。制度を使うかどうか以前に、その準備をすることが大事なのだと思う。
給付金は助かるが、生活費の確認は別に必要

介護休業を調べると、介護休業給付金の話も出てくる。
雇用保険の制度として、一定の要件を満たせば、介護休業中に給付金を受けられる場合がある。厚生労働省のQ&Aでは、給付額は原則として、休業開始時賃金日額に支給日数を掛け、さらに67%を掛けて算出すると説明されている。
これは大きい。
完全に無収入で休むのと、一定の給付があるのとでは、心理的な差がある。
ただし、これも「休んでも大丈夫」という意味ではない。
給付には要件がある。
支給額には上限がある。
賃金が支払われる場合には減額されることもある。
申請は原則として事業主を経由する。
正確な金額は、ハローワークや会社の担当者に確認する必要がある。
さらに、給付があっても、手取りは普段と同じではない。住宅ローンは完済しているとはいえ、生活費は続く。母への仕送りもある。実家の維持費や介護費用もある。自分たち夫婦の老後資金を削りすぎるわけにもいかない。
介護休業を取るかどうかは、気持ちだけでは決められない。
休む期間。
その間の収入。
親の費用。
自分たちの生活費。
職場復帰後の仕事。
ここまで並べて考える必要がある。
私は、お金の話をするとき、どうしても身構える。親のお金、自分の退職金、相続、介護費用。どれも簡単ではない。
それでも、介護離職を防ぐという意味では、お金の見通しから目をそらせない。
休める制度を知ることと、休んでいる間の生活を確認すること。この二つは、分けて準備しておきたい。
辞める前に、相談する順番を決めておく
介護離職を防ぐために、いちばん大事なのは、辞める前に相談する順番を決めておくことだと思う。
親の状態が急に変わったとき、人は落ち着いて考えられない。
病院から連絡が来る。
退院後の生活を決める。
仕事の予定を動かす。
実家へ通う。
親の不安を聞く。
そういう状況で、制度を一から調べ、人事に相談し、介護サービスを探すのは負担が大きい。
だから、今のうちに順番だけでも書いておきたい。
まず、親の状態を整理する。何に困っているのか、どのくらいの期間続きそうか、家族が何を補っているかを見る。
次に、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談する。家族が休んで全部見る前に、外の支援で組めることを確認する。
そのうえで、会社の制度を確認する。介護休暇で足りるのか、短時間勤務や残業免除が必要なのか、介護休業を考える段階なのかを分ける。
最後に、生活費と給付金の見通しを見る。休む期間とお金を、感情ではなく数字で確認する。
この順番を持っているだけで、少し違う気がする。
会社を辞めるかどうかは、最後に考えることだ。
もちろん、現実には辞めざるを得ない人もいる。職場環境や親の状態、家族の人数によって事情は違う。簡単に「辞めない方がいい」と言える話ではない。
ただ、私自身は、できる限り働き続ける前提で考えたい。
親の介護のために仕事を辞めれば、当面の時間はできるかもしれない。だが、その先には自分たち夫婦の老後もある。子どもたちに負担を渡したくないという思いもある。
介護は、親の暮らしを守るためのものだ。
同時に、自分の暮らしを壊しすぎないための準備でもある。
制度を知ることは、冷たい計算ではない。親を支える時間と、仕事を続ける時間の両方を残すための準備だと思う。
まだ使うかどうかは分からない。
だが、知らないまま追い込まれるより、使える制度を知り、相談先を決め、仕事の分け方を考えておきたい。定時のあとの時間を使って、少しずつ進めていく。


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