災害が起きたら、一人暮らしの母の安否をどう確かめるのか

災害が起きたら、一人暮らしの母の安否をどう確かめるのか 親の老い

大きな災害が起きたら、一人暮らしをする母の安否をどう確かめるのか。

母との連絡手段は、ほぼ電話だけである。平常時なら、実家まで車で向かえる。だから、何かあれば行けばいいと思っていた。

だが、その前提を一度崩して考えてみると、思っていたより足りていないことに気づいた。行けるはずの道が使えないかもしれないこと。用意したはずの物が、今どこにあるか分からないこと。母に必要な物を、私が把握していないこと。

今回は、災害を予言する記事ではなく、家族がすぐに集まれない前提で、母の安否確認をどこから始めるかを整理する。母の自治体や避難先は特定せず、各家庭で住所を入れて確認する部分を残しておきたい。

母の家へ行くには、橋を渡らなければならない

母の家までの道には、橋が何か所かある。

普段は意識しない。渡って、通り過ぎるだけの場所である。だが最近の豪雨の報道を見ていると、あの橋が渡れなくなる日があるのではないかと思うようになった。増水すれば通行止めになる。大きな地震なら、橋そのものが落ちることもある。

そうなれば、距離は変わらないのに、母の家は行けない場所になる。

これまで私は、母に何かあれば車で向かえばよいと考えていた。通院の付き添いも、買い物も、書類の確認も、時間さえ作れば私が行って対応できると思っていた。その前提は、道が使えることの上に乗っていた。

道が使えなくなる理由は、橋だけではない。

  • 橋が通行止めになる、または落ちる
  • 道路が浸水している
  • 倒木や落下物で通れない
  • 停電や通信障害で状況が分からない
  • 家族自身が職場や外出先から動けない
  • 母が避難していて、実家にいない

台風や豪雨の前に空き家で確認することでは、雨風が強まったら建物を見に行かない基準を整理した。母の安否確認でも同じで、心配だからと危険な道路へ向かうことが、最初の行動になるわけではない。

私が先に決めておきたいのは、「どの時点で駆けつけないか」である。母のいる場所を確認するために、家族自身が被災する可能性を高めては意味がない。

まず、母の住所で避難先と危険を確認する

住宅地の避難先を確認するため、地図の色分けを見ながら住所周辺を確かめる準備

母の家の近くには、避難先としてすぐに思い浮かぶ学校などがない。

ただ、思い浮かばないことと、指定された避難先がないことは同じではない。自治体は、災害の種類によって避難場所を指定している。家族の記憶や地図アプリの検索だけで決めない方がよい。

内閣府の説明では、指定緊急避難場所は、災害の危険から命を守るために緊急に避難する場所であり、洪水や地震など災害の種類ごとに指定される。指定避難所は、危険がなくなるまで、または自宅へ戻れない人が一定期間滞在するための施設である。両方を兼ねる場所もあるが、役割は同じではない(内閣府「避難場所に関すること」)。

母の住所を入れて、次のことを確認したい。

  • 洪水、地震、土砂災害など、地域で想定される災害
  • 災害の種類ごとの指定緊急避難場所と、一定期間過ごす指定避難所
  • 母の家からそこまでの道
  • 橋、川、低い土地、狭い道路など避けたい場所
  • 夜間や停電時にも目印が分かるか
  • ストーマ交換やトイレについて相談できる窓口

国土地理院のハザードマップポータルサイトでは、災害リスクを地図で確認できる。自治体の防災マップや避難所一覧もあわせて見る。

避難先を一つだけ覚えておくのではなく、「洪水のとき」「地震のとき」「その場所へ行けないとき」に分ける。指定緊急避難場所が災害の種類ごとに決まるためである。

橋の話とつながるのはここである。私が行けるかどうかとは別に、母がその足で行ける避難先はどこかを、母の側の道で確認しておく必要がある。

電話がつながらないときの順番を決めておく

家の電話のそばに置いた無地のメモ帳とペン。災害時の連絡手順を準備する場面

災害時に電話がつながらない可能性があるなら、かけ続ける以外の手段を用意しておく必要がある。

普段の緊急連絡先は、急病や転倒など、電話が使える場合の順番が中心になる。緊急時の連絡先を親と共有しておくでは、119、110、家族、近所、医療・介護の連絡先を役割で分けた。災害時は、そこへ通信が止まった場合の確認方法を加える。

私の家族なら、次のような順番を事前に書いておく。

  1. 母へ電話をする。時間を置いて、もう一度かける
  2. SMSなど、別の通信手段が使える場合は短い文を送る
  3. 家族の代表者を一人決め、その人が状況を集める
  4. 母の近くで様子を見てもらえる人へ相談する(後述するが、我が家はここが弱い)
  5. 災害用伝言ダイヤル171など、災害時の安否確認手段を使う
  6. 自治体の防災窓口や消防・警察へ、緊急性に応じてつなぐ

総務省消防庁も、家族の安否確認方法、避難場所、災害用伝言ダイヤル171の使い方を普段から決めるよう案内している(消防庁「ふだんの対策・家族の安否の確認方法」)。171は災害時に音声を録音・再生する仕組みだが、使える状況や対象は災害によって変わる。

ここで一つ、はっきりさせておかなければならないことがある。母の近くに親戚はいない。 知人はいるが、皆すでに高齢である。

つまり、「母の近くの誰かに様子を見てもらう」という一手は、我が家では当てにできない。その人たち自身が、災害のときには支えられる側になる。

そうなると、母が自分で状況を伝えられるかどうかが、思っていたより重い。道具を知っていることと、母がそれを使えることは別である。

だから、災害用伝言ダイヤル171の使い方は、メモに書いて母に渡しておくことにした。 口頭で一度説明しても、そのときに思い出せなければ意味がない。かける番号、録音と再生の手順、話す内容を短く書いて、電話のそばに置いておく。

伝言の内容は長くしない。名前、今いる場所、けがの有無、避難したかどうか、次に連絡できる時間。「大丈夫」だけでは、どこにいて何が必要なのか分からない。家族が同じ項目を使えば、短い情報でも次の判断につなげやすい。

母が使えなかった場合にどうするかも、同じ紙に書いておく。使えることを前提にした準備は、使えなかった日に何も残らない。

家族はそれぞれ別の場所にいて、そこも行けなくなる

母の安否が気になると、家族全員が母のところへ向かうことを考えやすい。

だが、災害が起きた時間帯によっては、妻も私も別の場所にいる。それぞれが自分の安全を確保しないまま、母のために動くことはできない。

そして、子はすでに独立して別の家で暮らしている。母の家へ行けないのと同じことが、子の家についても起きる。交通機関が止まり、道路が塞がれば、しばらく行けない。孫の顔を見に行くのとは訳が違う。

つまり私の家族は、平常時には車で行き来できる距離にいるだけで、災害時にはそれぞれが孤立しうる場所に散らばっている。母だけを心配していたが、確認する相手は一人ではなかった。

対象最初に確認すること次に決めること
母今いる場所、けが、避難の有無その場にとどまるか、指定場所へ移るか
妻いる場所と、安全に帰れるか合流するか、その場にとどまるか
子の家族全員の無事と、必要な物があるか行けない前提で、何を送れるか・頼めるか
私職場と自宅の安全母の確認役を担えるか、代替者は誰か

「母を確認する人」を一人に決めても、その人が被災すれば止まる。第一連絡者と第二連絡者を置き、情報を集める人と、実際に動く人を分ける。

家族全員が同じ場所へ集まることを目標にするより、まず各自が安全な場所にいることを確認する。その後に母の状況を共有する方が、連絡が混乱しにくい。

用意したつもりの物が、今どうなっているか分からない

日常使いのリュックと小さなポーチを机に広げ、持ち物を見直す準備

ここからは、書いていて気が重くなった部分である。

我が家には非常用の携帯トイレがある。買ったことは覚えている。だが、使用期限があったのかどうかも、今どこに置いてあるのかも、はっきりしない。 用意した時点で安心して、そこから確認していない。

もう一つは、母のリュックである。

母が最初の入院を終え、ストーマが必要になったとき、妻が母のためにリュックを用意した。防災用の物々しい袋ではない。日常使いできるふつうのリュックで、出かけるときに必要な物を入れて持てるようにしたものである。以来、母が外出するときはそれを持つ。

用意したのは災害のためではなかった。外出先で困らないようにという、その時々の必要から出たものだ。それでも今になって考えると、母が家の外にいるときに何かが起きても、必要な物が手元にある形になっている。 妻が作ったのは、非常用の備蓄ではなく習慣のほうだった。

ただし、その中身が今どうなっているかを、私は確認していない。 何が入っていて、いつ補充されたのか。母に任せきり、妻に任せきりで、私は一度も開けていない。

そして三つ目。母のストーマ用品の在庫そのものを、私は管理していない。 用品は自宅へ届けてもらう形にしたので、通院のたびに薬局へ寄る手間はなくなった。手間は減ったが、そのぶん私が中身を見る機会も減った。今どれだけ手元にあるのかを、私は言えない。

書き出してみると、共通しているのは同じことだった。用意する段階では誰かが動いていて、その後を誰も確認していない。

期限が切れた備蓄は、あるつもりで数えている分だけ、ないより厄介かもしれない。置き場所が分からない物は、持ち出せない。誰かが管理してくれている物は、その人と離れた場所で被災したら使えない。

だから、次に決めるのは新しく買う物ではないと思っている。すでにある物を、一度開けて見ることのほうが先だ。

  • 携帯トイレの使用期限と、置き場所
  • 母が持ち歩くリュックの中身と、最後に補充した日
  • 母のストーマ用品が、今どれだけ手元にあるか
  • それぞれを、次にいつ見直すか

日付を書いておけば、次に開ける理由ができる。私はこれまで、その日付を作っていなかった。

水と懐中電灯だけでは、ストーマのある母の準備にならない

母にはストーマがある。

非常用の水と懐中電灯は用意していた。それで最低限の準備ができたと思っていたが、母の暮らしに必要な物は、それだけではない。

ストーマ用品は、どこでも同じ物が手に入るとは限らない。いつもの装具、交換に使う用品、使用後の袋、水が使えないときに必要になる物。避難する場所や持ち出す人も含めて考えなければならない。

日本オストミー協会は、ストーマ装具・用品を余裕を持って保管し、非常持ち出し袋には避難所での交換に必要な用品を2〜4週間分入れること、倒壊などに備えて別の場所にも分散して保管することを案内している。また、避難所のトイレや装具交換スペースを事前に確認するよう示している(日本オストミー協会「オストメイトの災害対策」)。

分散して保管する、という部分は、橋の話とつながって読めた。一か所にまとめてあると、その場所へ行けなくなったときに全部が使えなくなる。

これは、母の状態や自治体の支援に合わせて確認するもので、家族が数字だけをそのまま当てはめればよいという意味ではない。主治医、ストーマ用品の販売店、自治体の障害福祉窓口、日本オストミー協会などへ、母が使っている用品と地域の備蓄を確認したい。

持ち出し袋には、次の情報も入れる。

  • 母の氏名と連絡先
  • ストーマがあることを伝えるカードや必要な証明書
  • 使っている装具の名前、サイズ、交換に必要な用品
  • 装具を購入している販売店の連絡先
  • 通院先と主治医の連絡先
  • 服薬やアレルギーなど、医療者へ伝える概要
  • 家族の連絡先と、避難後の連絡方法

医療情報を細かく書きすぎて、本人が持ち歩けないほど重くする必要はない。最初の一枚に要点を書き、詳細の保管場所を別に示す。自分の医療情報を家族にどう残すかでも書いたが、アプリだけに置くと、電池が切れたときに家族が開けない。紙の控えも要る。

家族だけで抱えず、支援の窓口を先に確かめる

母の近所では高齢化が進んでいる。

近所の人にも、それぞれ自分の安全を確保する必要がある。災害が起きたら、誰かが必ず母を助けに来てくれると考えるのは現実的ではない。

一方で、家族だけで母の生活を支える必要もない。普段、買い物をヘルパーに頼むようになってから、私が毎週必ず実家へ行かなければならないという圧力は軽くなった。母にも、家族以外の人と話す接点ができた。

ただし、普段のヘルパーが災害時に必ず訪問できるとは限らない。介護事業所、ケアマネジャー、地域包括支援センター、自治体の担当窓口へ、災害時の連絡方法や、サービスが止まった場合の相談先を確認しておく。

確認したいのは、次のようなことだ。

  • 母が避難に支援を必要とすることを、どこへ伝えておくか
  • 避難行動要支援者名簿など、自治体の制度の対象になるか
  • ヘルパーが来られないときの代替連絡先
  • 避難所でストーマ用品やトイレの配慮を誰へ申し出るか
  • 家族が道路を通れないとき、母の状況を確認できる人

最後の一つが、私にとっては一番重い。橋が渡れない日に母の様子を見に行ける人が、今は思い当たらない。 近くに親戚はおらず、知人は高齢である。だからこそ、家族以外の窓口を先に確かめておく意味が大きい。制度の登録や支援内容は自治体によって違うが、まずは母の住所を伝えて、使える制度と実際の連絡先を聞くことから始めたい。

思っていたより脆いところで暮らしていた

こうして並べてみると、自分の暮らしが思っていたより脆いところに乗っていたと分かる。

母の家へは橋を渡らないと行けない。近くに親戚はおらず、知人は高齢である。子の家へも、交通が止まれば行けない。用意した携帯トイレは、期限も場所も分からない。母が持ち歩くリュックの中身を、私は見ていない。ストーマ用品の残りも、私には言えない。

一つずつは小さなことだが、災害というのは、その小さな穴が同時に開く日のことだと思う。

不安を煽りたいわけではない。ただ、「行けば何とかなる」という前提を一度外してみると、自分が何に頼って安心していたのかが見える。 私の場合、それは道が使えることと、誰かが管理してくれていることだった。

だから、最初にやることは大きな備蓄ではない。

171の使い方を短いメモにして、母の電話のそばへ置く。家にある物を開けて、期限と置き場所を確かめる。母のリュックの中身を一度見せてもらい、補充した日を書いておく。ストーマ用品が今どれだけ手元にあるかを聞く。母の住所で避難先を調べ、母の足で行ける道かを見る。連絡の順番を一枚にして、家族に見せる。

どれも、その気になれば今週できることばかりである。私はそれを、何年もしないままにしていた。

災害そのものは止められない。それでも、電話がつながらない時間に何をするかを決めておけば、祈るだけの時間を少し短くできる。まずは、一番近いところにある引き出しを開けるところから始めたい。

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