台風の予報を見ると、実家の母屋が気になる。
ここ数年、二つの台風が同じ時期に進んでいると聞くことが増えた。短い時間に激しく降る雨も、以前より身近になった気がする。実際に変わったのか、私が気にするようになっただけなのかは分からない。ただ、予報を何度見ても、進路も雨量もこちらでは変えられない。
これまでの台風や大雨で、母屋に家族が把握している大きな被害はなかった。父が手を入れた建物が長く持っていることを、ありがたく思う。
ただし、次も同じとは限らない。母は同じ敷地の離れで暮らし、母屋には日常的に住む人がいない。雨どい、窓、道路側の草木に変化があっても、気づくのが遅れる可能性がある。
今回は、台風や豪雨が近づく前に、空き家に近い母屋で何を、いつまでに確認するかを整理した。大切にしたいのは、建物を見るために危険な天候の中を移動しないことである。
防げないことと、決めておけることを分ける
想定を超えた、という言葉をニュースで何度も見た。
そのたびに、備えても仕方がないのではないか、最後は覚悟を決めるしかないのではないか、と思うことがある。備えた方がよいのは分かっていても、何をどこまでやれば備えたことになるのかが分からない。
行き詰まるのは、対象の置き方ではないかと思うようになった。私は「災害そのもの」に備えようとしていた。動かせないものを相手にすれば、備えようがないという結論にしかならない。
そこで、実家に限って三つに分けてみた。
- 変えられないこと — 台風の進路、雨量、河川の水位。情報として見るだけ
- 減らせること — 飛ばされそうな物、閉まっていない窓、詰まった排水。雨風が強まる前なら手が届く
- 決めておけること — 行かない条件、連絡の順番、母が避難を考える時点、写真、保険の連絡先。天候と関係なく、今日でも決められる
この記事で扱うのは、後ろの二つである。備えようがないと感じていた時間を、手の届く作業へ振り替えるための整理だと考えている。
確認は、雨風が強まる前に終える

台風前の確認には、終える時刻がある。
気象庁の自分で行う災害への備えでは、窓や雨戸、側溝や排水口、飛ばされそうな物など、家の外の備えは大雨が降る前、風が強くなる前に行うよう案内している。
予報を見てから実家へ向かう場合も、雨や風が始まっているなら、建物の確認を優先しない。
台風は、中心が近づいてからだけ天候が悪くなるとは限らない。前線の影響で、台風が離れているうちから雨が強まることもある。台風の進路だけでなく、実家がある地域の警報、注意報、雨の予報、河川や土砂災害の情報を見る。
私が先に決めたいのは、確認する日より「もう行かない時点」である。
- 大雨や強風が始まる前に作業を終えられない
- 道路や橋の通行に不安がある
- 河川の増水や土砂災害の危険が高まっている
- 夜間になり、建物の周囲を安全に見られない
このような場合は、母屋を見に行かない。母の安全と家族の移動を優先し、建物は天候が落ち着いてから確認する。
「念のため見てくる」という行動が、危険な移動の理由にならないようにしたい。
母が暮らす離れと、母屋を分けて考える
普段は、母屋と離れをまとめて実家と呼んでいる。
台風前は、この二つを分けなければならない。
離れには母が暮らしている。確認の中心は、母の安全、連絡手段、必要な水や明かり、避難に関する情報である。
母屋は空き家に近い状態で、年に数回の法要や片付けで使う。確認の中心は、窓や扉、雨水の通り道、飛ばされる物、周囲への影響である。
建物の順番としては、次のように考える。
| 優先 | 見る対象 | 台風前に決めること |
|---|---|---|
| 1 | 母の安全 | 連絡方法、気象・避難情報、必要な物、家族が行けない場合の動き |
| 2 | 離れ | 窓・雨戸、屋外の物、排水、停電や断水への備え |
| 3 | 母屋 | 開口部、飛散物、道路・隣地側、地上から見える変化 |
母屋を守るために、離れの母を一人にして長い作業をするのは順番が違う。
母との連絡は、ほぼ電話だけである。平常時なら実家へ行けても、大きな災害では橋や道路を通れない可能性がある。緊急時の連絡先を親と共有しておくときと同じく、電話がつながらない場合に次に誰が何をするかを、天候が悪くなる前に確認しておく。
指定緊急避難場所や避難所は、思い込みで決めない。実家のある自治体が公開する情報で、災害の種類ごとに確認する。
外回りは、地上から見える場所だけ確認する

母屋の外で見る場所は、普段の見回りと同じでよい。
屋根や高所へ上がらず、地上から次を確認する。
- 窓、雨戸、扉が閉まり、鍵がかかっているか
- 雨どいと縦どいに、地上から見える外れや詰まりがないか
- 側溝や排水口を、落ち葉やごみがふさいでいないか
- 植木鉢、空の容器、掃除道具など、風で動きそうな物がないか
- 道路側や隣地側へ、折れた枝や外れそうな物が出ていないか
- 郵便受けや簡易なふたなど、固定が弱くなっていないか
安全に動かせる小さな物は、屋内へ入れるか固定する。重い物、高い場所、外れかけた部材は、その場で直そうとしない。
枝を切る必要があるなら、台風直前ではなく、季節の見回りで早めに手配する。強風が近づいてから脚立を使ったり、太い枝へ手を出したりはしない。
空き家に近い母屋を放置したときの確認項目には、雨どい、外壁、窓、草木を地上から見る順番をまとめた。台風前に新しい点検項目を増やすより、いつもの場所を短時間で見て、前回と違う箇所だけを記録する方がよい。
明らかな傾き、落下しそうな屋根材や外壁、大きなひび、煙やガス臭などがあれば、確認のために近づかない。人が通らないようにできる範囲を確保し、状況に合う専門家や契約先へ連絡する。
室内は、雨水の入り口と使う場所を絞って見る
母屋の中へ入るのは、外から見て安全で、床や天井にも大きな変化がない場合だけにする。
台風前に確認するのは、全部屋の片付けではない。
窓が閉まっているか。
窓の近くに、ぬれて困る物が置かれていないか。
法要や掃除で使う一階の通路に、倒れやすい物がないか。
普段使っていない電気製品が、必要のないまま接続されていないか。
ここまでを短時間で見る。
窓ガラスの飛散に備える方法や、飲料水・生活用水、懐中電灯など家の中の備えも、気象庁の案内にある。ただし、母屋と離れで必要なものは違う。
母が暮らす離れには、人が使う水、明かり、食品、連絡手段が必要である。人が住んでいない母屋へ同じ量の非常用品を置くことが優先ではない。
母屋では、雨水が入りそうな開口部を閉め、倒れた物が通路をふさがない状態を作る。生活の備えと建物の備えを混ぜない方が、限られた時間で見る場所が決まる。
また、母屋の電気と水道は、掃除や法要のために契約を続けている。台風前に家族の判断だけで元栓やブレーカーを一律に操作するのではなく、現在の使用、設備の状態、契約先の案内に合わせる。分からない設備へ触らないことも確認項目に入れる。
ハザードマップで、建物より先に行動を決める
台風前の空き家確認は、建物の点検だけでは完結しない。
実家へ向かう道路が浸水しやすいか。橋や河川の近くを通るか。実家周辺に洪水、土砂災害、高潮などの想定があるか。母がどこへ、いつ移動するのか。
実家の裏に、崩れてくるような山はない。そのため、土砂災害を最初に思い浮かべたことはなかった。
気にしてきたのは水の方である。海からは離れているものの、土地の海抜は低く、大きな川が近い。津波よりも、川の増水や、降った雨が引かない状態の方が、私の実家では起こりやすいのではないかと思っている。
ただしこれは、その土地で暮らしてきた者の感覚にすぎない。そのまま備えるのではなく、想定は地図で確かめる。
国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、全国の災害リスクを重ねて見る地図と、市区町村のハザードマップを確認できる。
気象庁の浸水害の説明では、大雨などで地表の水が増えて排水が追いつかず、用水路や下水溝があふれたり、河川の増水や高潮で排水が阻まれたりして住宅や田畑が水につかる災害を、浸水害(内水氾濫)としている。川があふれる場面だけを想像していると、この形は想定から抜けやすい。母屋の側溝や排水口を台風前に見るのは、そのためでもある。
ただし、地図を一度見ただけで、個別の安全を断定しない。自治体の避難情報、気象庁の防災気象情報、実際の道路状況を合わせて見る。
私の実家の近くには、学校など避難先としてすぐ思い浮かぶ施設がない。だからといって、指定された場所がないとは限らない。実家の住所で、災害の種類ごとの指定緊急避難場所と避難所を自治体の情報から確かめる必要がある。
この確認は、台風が来るたびに一から始めるものではない。最初に分けた「決めておけること」を、実家の事情に合わせて具体化しておく。
- 実家周辺で想定される災害
- 自治体の情報を見る場所
- 母が避難を考える時点
- 家族が実家へ行かない条件
- 電話がつながらない場合の次の連絡先
平常時に一枚へまとめ、台風前は情報が変わっていないかを見る。
空き家の状態確認と、母の避難判断は役割が違う。建物の写真を撮り終えるまで、母の行動を待たせない。
台風前の写真と保険の連絡先をそろえる

母屋を見るときは、台風前の状態を写真に残す。
建物の正面、道路側、隣地側、雨どい、窓や扉など、毎回同じ位置から撮る。写真の名前には、日付、場所、向きを入れる。
空き家管理の見回り記録で使う基準写真があれば、台風前後の変化を同じ場所で比べられる。
写真は、保険金が支払われることを保証するものではない。損害の原因、契約内容、免責、建物の使用状態などで扱いは変わる。それでも、いつ、どの場所が、どのような状態だったかを契約先へ説明する材料になる。
日本損害保険協会の自然災害による保険金請求の案内でも、損害物の写真を複数枚用意し、具体的な手続きは加入する損害保険会社や代理店へ相談するよう案内している。
台風前には、次の連絡先と書類の場所を確認しておく。
- 母屋と離れ、それぞれの保険会社・代理店
- 証券番号が分かる書類の保管場所
- 修繕や管理を相談する先
- 自治体の防災情報と空き家相談窓口
- 家族内で連絡を受ける人
空き家に近い実家の火災保険で整理したように、母屋と離れは別の契約である。風災や水災が含まれるか、免責や連絡期限はどうなっているかを、台風後に慌てて推測しない。
日本損害保険協会の自然災害に備えるための損害保険も確認し、最終的には母屋と離れの契約内容を保険会社や代理店へ確かめる。
被害があった場合も、「保険で無料修理できる」と勧誘する事業者と先に契約せず、加入先へ確認する。保険の対象になるかは、修理業者ではなく保険会社や代理店へ相談する。
台風前・接近中・通過後で行動を分ける
台風への備えは、一枚の長い点検表より、時点を三つに分けた方が使いやすい。
| 時点 | 行うこと | 行わないこと |
|---|---|---|
| 雨風が強まる前 | 母の連絡・避難情報、窓・扉、排水、飛散物、基準写真、連絡先を確認 | 高所作業、範囲の広い剪定、無理な修繕 |
| 接近中 | 気象・避難情報と母の安全を確認する | 母屋を見るための移動、河川や側溝の確認、屋外作業 |
| 通過後 | 安全が確認されてから外観を地上から見る。変化を記録し、契約先へ相談する | 屋根へ上る、落下物へ近づく、原因や保険適用を家族だけで決める |
通過後も、雨がやんだから安全とは限らない。風の吹き返し、増水、土砂災害、切れた電線、建物からの落下物がある。自治体や気象情報を確認し、明るい時間に、安全な場所から見る。
修繕が必要に見えても、写真と応急的な安全確保を先にし、工事範囲と契約条件を確認する。実家の修繕をどこまで行うかで分けたように、安全、傷みの拡大防止、現在の使用、将来の利用を同じ日に決めない。
私が作りたいのは、母屋を完全に守る点検表ではない。
雨風が強まる前にできることを終え、危険になったら行かず、通過後も安全を確認してから見る。その境目を家族で共有するための表である。
覚悟を決めるしかない、という気持ちは、いまも消えていない。それでも、決められる側を一つずつ書き出しておけば、当日に迷う項目は減る。備えるとは、その差を少しずつ広げることなのだと思う。
建物は気になる。それでも、母と家族が無事であることより先に確認するものではない。
定時のあとの時間を使って、少しずつ実家の台風前後の動きを一枚に整えていく。


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