緊急時の連絡先を親と共有しておく

緊急時の連絡先を親と共有しておく 親の老い

親に何かあったとき、最初に誰へ連絡すればよいのか。

母が入院したあと、私は親戚の連絡先も、近所で頼れる人の連絡先も、きちんと把握できていなかった。母に聞きながら一覧を作り、実家の電話の横に置いた。

そのときは、番号がそろえば準備が終わると思っていた。けれど、必要なのは一覧そのものではなかった。どの場面で誰に連絡するのか。親本人が電話できないときは誰が動くのか。救急や警察へつなぐときに、何を聞かれるのか。その順番まで決めておかないと、紙があっても手が止まる。

今回は、見守りサービスの比較や親の体調変化の観察ではなく、いざというときに連絡が止まらないための準備について考えた。

連絡先が分からないことに、入院後に気づいた

母の入院後、私は実家にある書類や連絡先を確認することになった。

通帳や保険証書の場所が分からない。土地の権利書がどこにあるかも分からない。さらに、母が普段付き合っている親戚や近所の人が誰なのか、私には十分に分かっていなかった。

母に聞けば、名前や電話番号を教えてもらえる。けれど、入院中の母に一つずつ思い出してもらうのは簡単ではない。体調や気持ちが落ち着かない時期でもあり、聞く側の私も、何を聞き漏らしてはいけないのか整理できていなかった。

その後、親戚と近所の知り合いの連絡先を一覧にした。近所の方には、何かあれば知らせてほしいとお願いした。介護を頼むという意味ではない。電話がつながらない、家の様子がいつもと違う、といったときに、家族へ一報が入る関係を作るためだ。

ただ、一覧ができた時点で、私は準備が終わったつもりでいた。実際には番号を書き写しただけで、誰から順にかけるのかも、その人に何を頼めるのかも決めていない。入院のあとに慌てて集めたので、聞き取ることだけで手一杯になっていた。

親が元気なうちなら、本人に聞きながら、連絡先の意味や関係も一緒に整理できる。番号を集める作業と、順番を決める作業は別だと、あとになって分かった。

電話番号を並べるだけでは、役割が分からない

家族・近所・専門窓口の役割ごとに連絡先カードを分ける場面

緊急連絡先の紙を作るとき、番号をたくさん載せれば安心だと思いやすい。

しかし、番号が増えるほど、誰から電話すればよいか分からなくなることもある。親が転んだとき、体調が悪いとき、家の鍵や水道で困ったときでは、連絡する相手が違う。

私は、連絡先を次のように役割で分けると考えやすいと思っている。

  • 命や体に関わるときに連絡する先
  • 家族の中で最初に知らせる人
  • 家族が電話に出ないときの次の人
  • 近所で様子を見に行ける人
  • かかりつけ医、薬局、介護事業所
  • 実家の鍵や設備を確認できる人

このうち「様子を見に行ける人」は、頼める範囲を本人に確かめておきたい。電話に出ないときに玄関の外から見てもらうのか、救急隊が着いたときに場所を案内してもらうのか。頼む内容が具体的なほど、相手も引き受けやすい。人の手だけで埋まらない部分は、一人暮らしの親を支える見守りサービス比較で調べたような機器やサービスで補う方法もある。

家族の中でも、昼間に電話を取れる人と、夜に動ける人は違う。近くに住んでいても、仕事や家庭の事情で駆けつけられない場合がある。名前と番号だけでなく、連絡しやすい時間帯と、実際にできることまで書いておくと、当てが外れにくい。

連絡先の一覧は、情報を集める紙ではなく、次の行動へつなぐ紙だと思うようになった。

まず家族へ知らせるのか、救急へつなぐのかを分ける

親が「少し具合が悪い」と電話してきたとき、家族は判断に迷う。

すぐ救急車を呼ぶ状態なのか。かかりつけ医へ相談するのか。しばらく様子を見るのか。家族だけで決めようとすると、電話の向こうの様子だけで判断することになる。

意識がおかしい、呼吸が苦しいなど、緊急性が高いと感じる場合は、家族への連絡を待たずに119番へつなぐ。何を話せばよいか分からないという不安は、聞かれることを先に知っておくだけでも小さくなる。

119番では、消防車や救急車が向かう住所、通報している人の名前と連絡先、そのほかの状況を、指令員が順番に確認する。住所が分からなければ、近くの大きな建物や交差点など目印になるものを伝えればよい。緊急性が高い場合は、すべてを聞き終える前でも出動するとされている(総務省消防庁の119番通報の案内)。

家族が症状をうまく説明できるかどうかより、実家の住所をその場で言えるかどうかの方が先に必要になる。私は連絡先の紙の一番上に、実家の住所と目印になる建物を書いておくことにした。通報するのが親本人でも、様子を見に来た近所の方でも、同じ紙を見れば答えられる。

救急車を呼ぶほどか判断がつかないときの相談先もある。救急安心センター事業(#7119)では、医師や看護師、救急救命士が電話で、救急車を呼んだ方がよいか、応急手当はどうするか、どこを受診すればよいかを助言する。ただし全国一律ではない。実施しているのは一部の地域で、受付時間も対象になる年齢も地域によって違う(総務省消防庁の救急安心センター事業(#7119)の案内)。

実家の地域が対象かどうかは、必要になってから調べるのでは間に合わない。対象外だった場合に備えて、全国版救急受診アプリ「Q助」のように、症状を選ぶと緊急度の目安が表示される仕組みも用意されている。

事件や事故など、緊急の警察対応が必要な場合は110番になる。生活の安全に関わる困りごとなど、緊急ではない相談は、警察相談専用電話の#9110や最寄りの警察署が窓口になる(警察庁の案内)。番号そのものは調べればすぐ分かる。難しいのは、目の前の出来事がどちらに当たるかを、慌てている場面で選ぶことだ。番号の横に、どんなときに使うのかを一言書き添えておくと、迷う時間は短くなる。

もちろん、家族が医療的な判断をするわけではない。症状を診断したり、受診の必要性を決めたりするのは専門家である。家族ができるのは、連絡先を迷わず選び、分かる範囲の事実を伝えることだ。

連絡先の紙には、番号のほかに次の情報も添えておきたい。

  • 実家の住所と、近くの目印になる建物
  • 親の氏名と生年月日
  • 連絡のつきやすい家族の名前と電話番号
  • かかりつけ医と薬局の名前、電話番号
  • 救急のときに伝えてほしい持病と服薬の概要
  • 健康保険証・介護保険証の保管場所
  • 玄関の鍵や合鍵の所在

暗証番号や銀行のパスワードまで紙に書く必要はない。必要な情報と、厳重に管理すべき情報は分けておく。

親が電話できないときの順番を決めておく

緊急時に備え、実家の合鍵を息子へ渡す母

緊急時には、親が自分で電話できるとは限らない。

体調が悪い。転んで動けない。スマートフォンを手に取れない。声が出しにくい。こうした場合は、家族が異変を知るまでの時間が問題になる。

私の場合は、母と電話する時間をだいたい決めている。今は毎日ではなく週に数回だが、時間を決めていること自体に意味がある。電話に出ないという事実が、いつもと違う出来事として見えるようになるからだ。決めていなければ、出なかったことにも気づかない。

もっとも、一度つながらなかっただけで重大な事態と決めつけることはできない。一回の電話で分かることは限られる、というのは親との電話でわかる小さな変化でも書いた通りだ。決めておきたいのは、つながらなかったあとに何をするかである。

例えば、次のような流れになる。

  1. 決めた時間に電話をする
  2. 出なければ、少し時間を置いてかけ直す
  3. 家族の別の人へ連絡する
  4. 近所で様子を確認できる人へ相談する
  5. 状況に応じて医療・介護・警察・消防へつなぐ

この順番は、家庭や地域によって変わる。大切なのは、誰か一人が全てを背負う形にしないことだ。私も仕事中にすぐ電話へ出られるとは限らない。私に届かなかった連絡が、そこで止まらないようにしておきたい。

あわせて決めておきたいのが、家に入る手段である。親が中で動けないとき、玄関が施錠されていれば、駆けつけた人も救急隊もすぐには入れない。合鍵を誰が持っているのか、預けていないなら誰が取りに行くのか。連絡の順番と同じくらい、ここで時間を取られやすい。

連絡先は親の目に入る場所と家族の共有場所へ

紙とスマートフォンの連絡順をそろえて電話操作を試す母と息子

連絡先は、家族のスマートフォンに保存して終わりにしない方がよい。

親本人が電話する可能性があるからだ。電話機の横や、普段使う机の近くなど、本人が迷わず見つけられる場所に置く。紙は大きな字で書き、名前と関係が一目で分かるようにする。番号を詰め込みすぎると、急いでいるときにかえって読みにくい。

母のスマートフォンは操作しやすい機種に替え、家族をワンタッチで呼び出せるようにしてある。ここで気をつけているのは、紙とスマートフォンで内容をずらさないことだ。登録した相手と、紙に書いた並び順をそろえておけば、どちらを見ても同じ順番で連絡できる。

一方で、個人情報が誰でも見られる場所に出しっぱなしにならないよう配慮も必要だ。通りから見える窓際や、訪問者が多い場所は避ける。近所の人の番号を載せる場合は、本人に掲載と共有の範囲を確認しておく。

家族側では、紙の写真を共有する方法もあるが、住所や電話番号を含むため、送る相手と保管場所を決める。古い一覧を残したままにせず、変更があれば差し替える。年に一度と決めなくても、電話番号が変わったとき、主治医や介護サービスが変わったときに見直す。

母が自分で電話できるところは、そのまま残しておきたい。一覧は、母から連絡手段を取り上げるための紙ではない。

連絡先を共有することは、支援を分けること

親の緊急連絡先を整えると、家族がすべて対応しなければならないように感じるかもしれない。

しかし、連絡先を共有する目的は、家族だけで抱え込むことではない。医療機関、介護事業所、地域包括支援センター、近所の知り合いなど、それぞれの役割へつなぐためだ。

電話、近所の声かけ、配食、訪問、通院。どれも一つで全てをまかなうものではない。組み合わせておくことで、家族が実家にいない時間にも、様子が伝わる線が残る。

そのため一覧には、事業所の代表番号だけでなく、担当者の名前と、つながる時間帯まで書いておきたい。平日の日中だけの窓口なのか、夜間や休日にも受け付けているのか。それが分かっていれば、夜に何かあったときに、家族だけで判断を抱え込む場面を減らせる。

ただし、親が元気なうちに話しておくべきことで考えたように、親の希望を確認しないまま連絡先を増やすと、本人が監視されているように感じることもある。誰に何を伝えるか、どこまで見守ってほしいかは、親と話し合って決めたい。

連絡先の一覧を作るときは、最後に次の三つを確認する。

  • 親本人が見て、誰に電話すればよいか分かるか
  • 家族が見て、次に誰へ連絡するか分かるか
  • 家族で対応できないとき、専門窓口へつなげるか

この三つがそろっていれば、紙の内容は最初から完璧でなくてよい。作ったあとに親と一緒に一度かけてみれば、分かりにくいところは自然と見つかる。緊急時の連絡先は、何か起きたときに探すものではなく、何も起きていないときに一度使ってみるものだと思うようになった。

まだ、母の暮らしに十分な備えができたとは思っていない。それでも、入院後に慌てて聞き集めたときとは違い、今は落ち着いて一つずつ確かめられる。定時のあとの時間を使って、少しずつ家族がつながれる連絡先を整えていく。

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