実家には三棟ある。母が一人で暮らす離れ、誰も住んでいない母屋、そして父が使っていた大工小屋だ。
母が母屋から離れに移ってから、母屋はそのままになっている。私が月に数回訪問して換気や点検をするくらいで、誰かが生活しているわけではない。空き家という言葉は知っていた。ただ、それが自分の問題だと実感できたのは、つい最近のことだ。
実家の母屋は、今は誰も住んでいない

父が亡くなってから、母は母屋で一人暮らしをしていた。二階建て・木造・60坪以上ある家だ。
父は60歳で亡くなった。現代では短い一生だったと思う。それから20年以上、母は一人であの家に住み続けた。
でも一人暮らしには広すぎた。浴室は広く、お湯を手動で張る方式だった。寝室は二階にある。毎日の上り下りが、母にとって少しずつ負担になっていた。
そこにがんの手術が重なった。退院後、母は母屋から離れに移ることになった。離れは平屋でコンパクトで、お湯もワンタッチで出る。一人暮らしには明らかにそちらの方が適していた。
それ以来、母屋には誰も住んでいない。
定期的に私が窓を開けて換気し、雨漏りや目立った傷みがないかを確認する。それだけだ。「管理している」と言えば聞こえはいいが、実態は現状維持にすぎない。
母屋は見た目にも傷んできている。ただ、雨漏りはない。致命的な症状はまだ出ていない。私も子どもも、ここで住む予定はない。修繕する理由が正直見当たらない。思い入れはある。でも、余分な費用はかけたくない——それが本音だ。
近所の家が傾いているのを見て、はっとした

実家の周辺は公共交通機関がほぼない地域だ。高齢化が進んでいて、空き家が増えているのは以前から知っていた。
ある日、近所の家の外壁が崩れているのに気づいた。何年も前から誰も住んでいないと聞いていた家だ。建物が傾き、玄関まわりの板が剥がれ落ちていた。草が敷地を覆い始めていた。
聞いたところによると、相続人が決まらないまま放置されているらしかった。誰も手をつけられず、そのままになっているということだった。
そのとき初めて、自分の実家の母屋のことが頭に浮かんだ。今は私が管理しているが、これが10年後も続けられるとは限らない。母が亡くなったあとのことは、まだ何も決まっていない。
空き家のリスクを改めて調べてみた

「空き家リスク」という言葉は聞いたことがあっても、具体的に何が問題になるかは知らなかった。改めて調べてみると、主なリスクは以下のようなことだった。
老朽化・倒壊リスク
換気や通水などの管理が十分でないと、湿気や設備の不具合に気づきにくくなる。外から見えない部分から傷むこともあるため、定期的な点検が必要になる。
防犯・火災のリスク
長期間空き家になっていると、不法侵入や放火など、防犯・火災に関するリスクも管理上の課題になる。郵便物や庭の状態など、外から見える変化にも注意が必要だ。
近隣への影響
庭の草木が放置されると、隣の敷地に侵入することがある。倒木・ごみの不法投棄・害虫の発生なども、近所への迷惑につながる。
固定資産税の問題
住宅用地に該当する土地には、一定の要件のもとで固定資産税の住宅用地特例が適用される。ただし、管理不全空家等や特定空家等について、自治体からの指導に従わず勧告を受けると、特例の対象外となる場合がある。適用の有無や実際の税額は、土地の区分や自治体の手続きによって異なるため、国土交通省の空き家対策特設サイトで制度の概要を確認し、個別の事情は市区町村に相談したい。
一つひとつは知っていたことでも、並べて見ると「放置してはいけない問題」だとはっきりわかる。
「特定空き家」という制度を知った
2015年に「空き家等対策の推進に関する特別措置法」が施行された。さらに2023年12月からは、特定空家になるおそれがある「管理不全空家等」も、指導や勧告の対象になっている。
この法律で定められているのが「特定空家等」への措置だ。倒壊の危険がある、衛生上有害、景観を著しく損なっている、周辺の生活環境の保全に不適切などの状態にあると、自治体が所有者に指導・勧告・命令などを行う対象になる。命令に従わない場合などには、行政代執行による除却が行われることもある。
小規模住宅用地では、課税標準が6分の1となる住宅用地特例がある。ただし、管理不全空家等や特定空家等について勧告を受け、特例から外れると税負担が増える可能性がある。空き家の状態や自治体の判断によって手続きは異なるため、単に「空き家になったから税金が6倍になる」と考えない方がよい。
ここで整理したのは、私が調べた範囲の制度の概要である。実家の状態や土地の区分によって扱いは変わるので、通知を受けた場合や判断に迷う場合は、市区町村の空き家相談窓口や税担当窓口に確認する必要がある。
直ちに措置の対象になるわけではないが、管理が不十分なままなら、将来のリスクは残る。
実家の母屋がいつかそこに至るかもしれないと考えると、「現状維持でいい」とは思えなくなった。
それでも今すぐ動けない理由がある
頭でわかっても、今すぐ解体や売却に動けるわけではない。
まず、今は母が離れで生活している。母屋のことを母の前で話し合うのは、まだ心理的なハードルがある。実家をどうするかという話は、母が元気なうちにしておくべきこととわかっていても、正面からは踏み込めていない。
費用の問題もある。以前、実家整理の費用相場を調べたとき、解体だけでも相当な額になることがわかった(実家整理の費用相場を調べた)。すぐに払える金額ではないし、払い方も含めて先に考えておく必要がある。
土地の問題も残っている。実家の周辺には小さな農地が何箇所か点在している。市街化調整区域だからといって、農地の売買や貸借が一律にできないと決めつけることはできない。農地のまま売買・貸借する場合は農地法の許可など、転用する場合は別の手続きが関わる。場所も面積も正確に把握できていないため、まずは農林水産省の農地に関する手続き案内を確認し、市町村の農業委員会に相談するところから始めたい。
そして気持ちの問題がある。
大工小屋には、父が使っていた道具がそのままある。倉庫には農機具や、祖母の代から残っているものが積まれている。それを処分することへの気持ちは、頭で整理しようとしても、うまくいかない。
今からできることを、少しずつ
近所の傾いた家を見るまで、「空き家リスク」は他人事だった。でも実家の母屋は、客観的に見れば今すでに空き家だ。
人が住んでいないこと、今後も住む予定がないこと、それをどうするかまだ決まっていないことが重なると、管理の責任や選択肢が見えにくくなる。私には、そこが早めに向き合うべき状態だとわかった。

今すぐ解体するか売却するかは決めていない。でも「知らないまま」でいることは、やめようと思う。
定期的な換気と点検は続ける。ただし、傾きや落下物など危険を感じる場所には無理に立ち入らない。解体・売却・活用の選択肢については情報を集めておく。そして母が元気なうちに、実家の今後について少しずつ話を進めていく。
後回しにするほど、選択肢が減っていく。それだけは学んだ(親が元気なうちに話しておくべきこと)。
定時のあとの時間を使って、少しずつ。

