母が離れに戻り、ひとまず生活の仕組みは整えた。安否確認の電話、配食サービス、買い物の段取り。動かせるものは動かした。
だが実家全体を見渡すと、先送りにしてきた問題がいくつも残っている。母が暮らす離れの隣には、誰も住んでいない母屋がある。父が使っていた大工小屋がある。半分が倉庫になっていて、農機具や祖母から引き継いだままのものが溢れている。手をつける気力もタイミングもなく、ずっとそのままだ。
「いつかは整理しなければ」とわかっていながら、費用の見当もつかないまま動けないでいる。まずは数字を知ることから始めた。
実家の片付けは、一つの業者では終わらない

最初に理解すべきことは、実家の片付けは単一の作業ではないということだ。
必要な作業によって、依頼する業者がまったく異なる。大きく分けると、次のようなものがある。
- 遺品整理・生前整理業者:荷物の仕分け・搬出・処分を一括で行う
- 不用品回収業者:不要な家具や家電を引き取る。家庭ごみを依頼する場合は、自治体の許可・委託の有無を確認する
- ハウスクリーニング業者:空き家になった後の清掃を行う
- 解体業者:建物を壊して更地にする
- 墓じまい業者・寺院:お墓の撤去と改葬を行う
全部まとめて頼める窓口もあるが、分けて依頼した方が費用を抑えられる場合もある。反対に、窓口を分けることで手間や運搬費が増えることもある。まず「何のために片付けるのか」を決め、見積もりの範囲と処分方法を確認してから業者を選びたい。環境省も、家庭ごみの処分は自治体のルールに従い、無許可の回収業者を利用しないよう案内している。
私の実家は母屋(二階建て・60坪以上)、離れ(屋根裏倉庫付きの平屋・40坪)、そして父が使っていた大工小屋(簡易的な建物だが敷地は60坪ほど)の三棟がある。大工小屋の半分はそのまま倉庫になっており、古い農機具や祖母の代から残っているものが積まれたままだ。母屋も大工小屋も、父が亡くなってから大きくは手を入れていない。建物面積と敷地面積が混在しており、単純に合計できる状態ではない。何十年分もの荷物が複数の建物に詰まっている。「棟数も広さも、一般的な相場をそのまま当てはめられない」というのが、調べ始めて最初に気づいたことだった。
何から手をつけるか、順番を決める
費用を調べる前に、私がつまずいたのは順番だった。
見積もりを取ろうとしても、「何をどこまで頼むか」が決まっていないと、業者も金額を出せない。実家の片付けで最初に必要なのは、作業ではなく前提を決めることだった。
私が整理した順番は、次の五つになる。
| 順番 | やること | 決まらないと困ること |
|---|---|---|
| 1 | 目的を決める(売る・貸す・住む・荷物だけ出す) | どの業者に何を頼むかが決まらない |
| 2 | 親の意向を確認する | 家族だけで進めて後から揉める |
| 3 | 権利証・通帳・保険証券など書類を確保する | 処分の中に紛れて見つからなくなる |
| 4 | 値がつきそうなものを分ける | まとめて処分費用を払うことになる |
| 5 | 残りを処分方法ごとに分ける | 見積もりの範囲が曖昧になる |
順番のうち、費用に直接効くのは3と4だ。
書類は、処分作業が始まってからでは探しにくくなる。荷物を運び出す前に確保しておきたい。
値がつきそうなものを先に分けておくと、処分する量そのものが減る。着物、切手、古銭、骨董品、工具などは、処分費を払って捨てるか、買取に回すかで扱いが変わる。
そして1と2は、急いで決めなくてよい。母の暮らしが落ち着いていない時期に、家の今後を先に決める必要はないと思っている。いつ動き始めるかについては、実家整理をいつ始めるべきかを考えたときにも迷ったところだった。
遺品整理・生前整理業者の相場

実家の荷物をまとめて片付けてもらうなら、遺品整理・生前整理業者が中心になる。
間取り別の料金目安は以下の通りだ。
以下は、私が2026年7月に複数の業者情報を見比べた際の目安で、地域・荷物量・処分方法によって変わる。料金表だけで判断せず、現地見積もりで追加費用の有無まで確認したい。
| 間取り | 費用目安 |
|---|---|
| 1K・ワンルーム | 3万〜8万円 |
| 1LDK・2DK | 5万〜15万円 |
| 3LDK以上・一戸建て | 10万〜30万円以上 |
地域による差もある。人件費・廃棄物処理費・運搬距離などで変わるため、地域別の掲載額をそのまま比較しない方がよい。
「以上」という部分が重要で、荷物の量が多い場合や特殊清掃が必要な状態になっている場合は、数十万円単位で追加になることもある。
なお、「遺品整理」と「生前整理」は、呼び方や依頼できる範囲が業者によって異なる。一般には、親が亡くなった後に行うものを遺品整理、存命中に本人や家族が主体で進めるものを生前整理と呼ぶことが多い。母が元気なうちに一緒に進められるなら、本人の意向を確認しながら進められる。
業者によって料金の幅が大きいため、複数社から見積もりを取ることを検討したい。見積もり料、出張費、キャンセル料、追加作業の扱いは業者ごとに確認が必要だ。実際に何を確認すればよいかは、遺品整理業者を頼む前に調べたことへ別にまとめている。
不用品回収業者の相場
大物家具や家電だけを個別に引き取ってもらうなら、不用品回収業者が選択肢になる。遺品整理業者より安く済む場合がある。
私が公開料金表を見比べた範囲でも、1回の作業は2万5千円〜19万円程度と幅があった。これは相場の保証ではなく、荷物の量と種類によって大きく変わる参考値だ。
品目別の目安は以下の通りだ。
| 品目 | 目安料金 |
|---|---|
| シングルベッド(フレーム+マットレス) | 1,500〜2,100円 |
| 冷蔵庫(1〜2ドア) | 1,800〜2,000円 |
| 冷蔵庫(3ドア以上) | 2,800〜3,000円 |
冷蔵庫・洗濯機・テレビ・エアコンは、回収料に加えて家電リサイクル料金と収集運搬料金がかかる場合がある。家電4品目の扱いは、経済産業省の案内で確認したい。処分点数が多い場合は、トラック一台分いくら、というプランが提示されることもあるが、積載量・追加料金・許可の有無を確認する必要がある。
自治体の粗大ごみ回収という選択肢もある。料金、対象品目、申込方法、収集場所は自治体ごとに異なるため、所在地の案内を確認したい。時間に余裕があれば、自治体のサービスと業者への依頼を組み合わせることで費用を抑えられる場合がある。
なお、何を残して何を出すかは、費用より先に家族で揉めやすいところでもある。その線引きについては、不用品回収を頼む前に家族で決めておきたいことで整理した。
ハウスクリーニングの相場
荷物を全部出した後、売却や入居に向けて清掃が必要になる。一戸建て全体の費用目安は以下の通りだ。
| 対象 | 費用目安 |
|---|---|
| 一戸建て全体(空室) | 6万〜20万円 |
| 一戸建て全体(平均) | 14万円前後 |
場所ごとに部分依頼することもできる。エアコン1台で1万〜1万5千円、浴室で1万5千〜2万5千円、キッチン(レンジフード含む)で2万〜3万5千円程度が目安だ。
居住年数が長い建物や汚れが蓄積している状態では、作業範囲や汚れの程度に応じて追加費用がかかる場合がある。棟数が多い場合も、対象範囲と料金の計算方法を見積もりで確認したい。
売却や賃貸に出さず、当面そのままにするなら、全体清掃は急がなくてよい。目的が決まっていない段階で先に清掃まで頼むと、費用が二重になることがある。
解体と墓じまい、最終的にはここまで考える必要がある

建物をどうするかを本格的に考えると、解体の問題が出てくる。以下は公開されている料金例から規模感を把握するための参考値で、実際の費用は構造、立地、残置物、廃材処分、整地などで変わる。今すぐではないが、考える材料として整理しておきたかった。
| 構造 | 坪単価目安 | 30坪の場合 |
|---|---|---|
| 木造 | 2.5〜4万円/坪 | 75〜120万円 |
| 鉄骨 | 3.5〜6万円/坪 | 105〜180万円 |
| RC造 | 4.5〜8万円/坪 | 135〜240万円 |
実家に当てはめると、数字の重さが変わってくる。母屋だけで60坪以上、離れが40坪、大工小屋の敷地が60坪ほどある。ただし、ここでは建物面積と敷地面積が混在しているため、単純に合計して解体費用を計算することはできない。母屋と離れを木造と仮定して坪単価をかけると、母屋だけで150万〜240万円以上、離れを加えれば250万〜400万円という計算になる。大工小屋は建物の延べ床面積と構造を確認してから別に見積もる必要がある。解体後の廃材処分・整地費用が加わるケースもある。自治体によっては老朽空き家の解体補助金があるため、所在地の制度は調べておく価値がある。
墓じまいについては、費用だけでなく菩提寺との関係や親族の合意形成が必要になる。墓を移す「改葬」には、市区町村長の許可が必要になるため、手続きは厚生労働省の案内と自治体の窓口で確認したい。総額は30万〜150万円以上という公開例もあるが、墓地の場所、離檀料、墓石の撤去、改葬先などで大きく変わる。金額の内訳と進め方は、墓じまいの費用と手順へ別に書いている。
見積もりで確認することと、費用を抑える余地
金額を調べていて分かったのは、同じ作業でも見積書の書き方で総額が変わるということだった。
料金表の数字は入口でしかない。実際の請求に効くのは、次のような条件のほうだ。
| 確認すること | 見落とすとどうなるか |
|---|---|
| 作業範囲(どの建物・どの部屋まで) | 当日「範囲外」と言われて追加になる |
| 廃棄物の処理方法と許可の有無 | 不適正処理のトラブルに巻き込まれる |
| 追加料金が発生する条件 | 見積額と請求額が食い違う |
| 作業人数と日数 | 延長分が別料金になる |
| 階段作業・搬出経路・駐車場 | 現場条件で割増になる |
| キャンセル料と支払い時期 | 予定が変わったときに動けない |
これらは、現地を見てもらった上で書面に残してもらいたい。口頭の説明だけだと、後から確認できない。
費用を抑える余地についても、いくつか分かってきた。
- 自分でやる範囲を決める:仕分けだけ家族で行い、搬出と処分を頼む形にすると、作業量が減る
- 自治体の粗大ごみを併用する:時間はかかるが、単価は業者より低いことが多い
- 値がつくものを先に分ける:処分量が減り、買取額が処分費の一部を相殺することがある
- 相見積もりを取る:同じ条件を伝えて比べないと、金額の差が何によるものか分からない
- 補助金を調べる:老朽空き家の解体には、自治体の補助制度がある場合がある
どれも、急いで一度に片付けようとすると使えなくなる方法でもある。時間に余裕があるうちに調べておく価値はあると思う。
概算を出してみて、わかったこと
私の家の状況を前提に、公開料金例を大まかに足し算してみた。一般的な相場を示すものではなく、建物面積や作業範囲が確定していない段階の個人的な概算だ。
| 作業 | 想定費用 |
|---|---|
| 遺品整理(母屋+離れ+大工小屋+倉庫) | 50万〜80万円以上 |
| ハウスクリーニング(複数棟) | 25万〜40万円程度 |
| 建物解体(母屋60坪+離れ40坪+大工小屋) | 300万〜500万円以上 |
| 墓じまい | 50万〜100万円程度 |
| **合計(概算)** | **425万〜720万円以上** |
正直、数字を足し上げた瞬間に手が止まった。「いつかやる」と思っていた問題の規模が、想像を超えていた。
ただし、これはすべてを業者に委ねた場合を想定した、私の家の状況についての粗い試算だ。一般的な相場や実際の請求額ではない。自分で動ける部分、買取に出せるもの、自治体のサービスを分けると総額は変わる。依頼前には、作業範囲、廃棄物の処理方法、追加料金、許可や届出が必要な作業の有無を確認したい。詳細な見積もりや実際に動いてみてわかったことは、別のところにまとめていく予定だ。
処分する前に、着物や切手、古銭、骨董品のように値がつく可能性があるものだけは、買取査定に出す選択肢もある。私が調べた中では、着物買取ならバイセルのような出張買取サービスもあった。捨てる前に分けておくだけでも、処分費用の見え方は少し変わる。
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費用の全体像を見て、率直に感じたのは「想定より大きい」ということだ。
だが同時に、費用の「幅」が大きいのは、何を目的にするかによって必要な作業がまったく変わるからだとわかった。売却するのか、貸すのか、とりあえず荷物だけ出すのか。その前提が決まらないと、どの業者に何を頼むかも決まらない。売る・貸す・壊すのどれを選ぶかについては、判断軸を整理したときの考え方が土台になっている。
今の私には、まだその前提が決まっていない。母が離れでの暮らしを始めたばかりで、今は生活を安定させることが先だ。ただ、費用の規模感を知った上で選択肢を考えられるようになったことは、調べた意味があったと思っている。
総額に驚いたときこそ、全部を一度にやろうとしなくてよいのだと思う。今年やること、親と相談してから決めること、先送りしてよいこと。三つに分けるだけでも、動き出せる部分は残る。
実家の問題は、急に動き出すことが多い。親の状態が変わったとき、売却の話が出たとき、そのタイミングで初めて相場を調べ始めると判断が遅れる。知っておくだけで、選択肢が増える。
定時のあとの時間を使って、少しずつ整えていくしかない。

