実家整理という言葉を聞くと、どうしても「片付ける」「捨てる」「業者に頼む」という作業を思い浮かべる。
けれど、実際に考え始めてみると、後悔しやすいのは作業そのものだけではない。
捨てすぎたことを後悔する場合もある。反対に、何もしないまま時間が過ぎたことを後悔する場合もある。親に聞いておけばよかったこと、写真に残しておけばよかった場所、書類の所在を確認しておけばよかったこともある。
私の実家も、まだ整理の途中だ。母は離れで一人暮らしをしており、母屋と大工小屋には長年の暮らしと父の仕事のあとが残っている。
今回は、実家整理で後悔しやすいことを、自分の実家に置き換えながら整理しておきたい。
捨てた後悔より、聞かなかった後悔の方が残る

実家整理でまず怖いのは、大事なものを捨ててしまうことだ。
古い写真。
手紙。
父の道具。
母が若いころに使っていたもの。
祖父母の代から残っているもの。
見た目だけでは、価値が分からないものが多い。
子どもの側から見ると、古い紙袋や壊れかけた箱にしか見えないものでも、親にとっては思い出があるかもしれない。反対に、こちらが大事そうだと思って残したものを、親はもう手放していいと思っていることもある。
判断は、外から見ただけでは分からない。
私の実家には、父の大工道具が残っている。ノミ、カンナ、ノコギリ、電動工具、細かな金物。道具として使う予定はない。それでも、父が仕事で使っていたものだと思うと、簡単に処分する気にはなれない。
ただ、全部を残し続けられるかといえば、それも難しい。
大工小屋の扉は傷み、開け閉めもしにくくなっている。中の道具を守るためにも、どこかで整理は必要になる。だが、その判断を私一人で決めるのは早いと思っている。
母に聞けるうちに、聞いておくことがある。
父が最後まで使っていた道具はどれか。
形見として残したいものはあるか。
誰かに譲れるものはあるか。
写真だけ残せばよいものはあるか。
処分してもよいと母が思っているものはどれか。
こうしたことは、親が元気なうちでないと聞きにくい。
実家整理の後悔は、「捨てたこと」だけではない。
聞ける相手がいるうちに聞かなかったこと。その方が、あとから長く残るのではないかと思う。
写真を残さずに片付けると、家の記憶が消える

実家の片付けでは、写真を撮っておくことが大事だと最近よく思う。
きれいな写真でなくていい。記念写真でなくてもいい。
玄関。
台所。
仏壇のある部屋。
父が使っていた作業場。
庭の木。
母屋の廊下。
押し入れの中。
大工小屋の入口。
そういう普段の場所を、整理する前に撮っておく。
片付けが進むと、家は変わる。物がなくなり、棚が空き、部屋の印象も変わる。業者に頼めば、一日でかなりの量がなくなることもある。
それは必要なことだ。
ただ、何も残さずに一気に片付けると、あとから思い出そうとしても、細部が抜け落ちる。
私も、父が元気だったころの作業場をもっと写真に残しておけばよかったと思うことがある。道具の置き方、材料の積み方、作業台の傷、壁に掛けていたもの。そういうものは、特別なものではないからこそ、写真を撮らない。
けれど、あとになって残るのは、そういう何でもない風景だったりする。
写真は、片付けを止めるためのものではない。
片付ける前の状態を、家族の記録として残すためのものだ。荷物の量や建物の傷みを後から確認できるという実務的な利点もあるが、後悔という意味で大きいのは、二度と戻らない普段の風景を残せることの方だと思う。
もちろん、撮るときは母に整理のためだと伝え、見られたくない場所は撮らない。写真を家族の外に出さない。そこは変わらず気をつけたい。
実家整理は、物を減らす作業であると同時に、家の記憶をどう残すかを考える作業でもある。
後悔しないために、片付ける前の写真を少しずつ残しておきたい。
書類の確認を後回しにすると、必要なときに困る

実家整理で後悔しやすいものの一つが、書類だと思う。
荷物の整理は目に見える。古い家具や衣類、食器、家電は、量として分かりやすい。
一方で、書類は地味だ。
小さな封筒やファイル、引き出しの奥に入っているだけなので、片付けの達成感はあまりない。けれど、必要なときに見つからないと困るのは書類の方だ。
通帳。
印鑑。
保険証書。
年金関係の書類。
介護保険の書類。
医療関係の書類。
土地や建物に関する書類。
固定資産税の通知。
墓やお寺に関係する書類。
親戚や近所の連絡先。
以前、母が入院したときに書類の場所が分からず慌てたことは、別の記事にも書いた。同じ話は繰り返さないが、あのとき痛感したのは、実家整理は「捨てる」より先に「探せるようにする」ことだということだった。
物を減らすことばかりに気を取られていると、この「探せるようにする」が抜け落ちる。書類は量が少なく、片付けの達成感も薄い。だからこそ後回しになり、必要な場面で初めて困る。
親が元気なうちに、書類の場所だけでも聞いておく。
全部を開示してもらう必要はない。親にも抵抗がある。お金の話は特に切り出しにくい。
だから、最初は聞き方を小さくする。
もし入院したとき、保険証や診察券はどこを見ればいいか。
固定資産税の通知はどこに置いているか。
通帳と印鑑は別々に保管しているか。
緊急時に連絡してほしい親戚は誰か。
この程度でも、次に何かあったときの動きは変わる。
ただ、保険証ひとつとっても、最近は様子が変わってきた。
これまでの健康保険証は新しく発行されなくなり、マイナンバーカードを保険証として使う形に移ってきている。母のように後期高齢者医療制度の対象になっていると、マイナンバーカードを保険証として使わない人には、資格確認書というものが代わりに届く。
母がそのあたりをどうしているのか、私は正直、すぐには答えられない。書類の場所を聞くというのは、こうした移り変わりに家族として追いつけているか、ということでもあるのだと思う。
書類は、親の財産を探るために確認するのではない。
いざというとき、親本人が困らないようにするために確認する。そう考えると、切り出し方も少し変わる。
後悔しやすいのは、書類を捨ててしまうことだけではない。
どこに何があるか分からないまま、必要な場面を迎えることだ。
急いで業者に頼む前に、家族で決めることがある
実家の荷物が多いと、自分たちだけでは無理だと感じる。
母屋、大工小屋、納戸、押し入れ。全部を家族だけで片付けるのは、現実的ではない。体力も時間も足りない。どこかの段階で、不用品回収業者や遺品整理業者に頼むことになるかもしれない。
業者に頼むこと自体は、悪いことではない。
むしろ、無理に家族だけで抱え込むより、専門の人に頼んだ方が安全で早い場面はある。重い家具、大量の家電、分別が難しいもの、処分方法が分からないものは、家族だけで動かすと危ない。
ただ、急いで頼む前に、家族で決めておくことがある。
どの部屋を対象にするのか。
残すものはどれか。
判断が必要なものを誰が見るのか。
貴重品や書類は先に抜き出したか。
写真や形見は別にしてあるか。
見積もりは複数取るのか。
当日は誰が立ち会うのか。
ここを曖昧にしたまま頼むと、あとから後悔しやすい。
業者は、依頼された作業を進める。家族の思い出や親の判断までは、最初から分かるわけではない。だから、残したいもの、触らないもの、確認してから決めるものは、こちらが事前に分けておく必要がある。
私の場合、父の道具がある大工小屋をそのまま業者に任せることは、まだできない。
まず写真を撮る。母に聞く。残すものを決める。道具として使えるものがあるのか、譲れる先があるのかも考える。そのうえで、処分するものを分ける。
そこまでして初めて、業者に相談できるのだと思う。
実家整理を業者に頼む前に必要なのは、完璧な仕分けではない。
家族として、何を勝手に処分してはいけないかを分かっておくことだ。
先送りの後悔は、親と自分の体力が落ちてから来る
実家整理で一番多い後悔は、やはり先送りかもしれない。
私自身、母屋や大工小屋を見るたびに、もっと早く少しずつやっておけばよかったと思うことがある。
ただ、その時期にはその時期の事情があった。
仕事が忙しい。親の通院がある。退院後の生活を整える必要がある。草刈りや買い物で一日が終わる。実家に行っても、片付けまで手が回らない。
こうしたことは珍しくないと思う。
だから、先送りしてきた自分を責めても仕方がない。
問題は、これからも同じように先送りするかどうかだ。
親の体力は少しずつ落ちる。長時間立って一緒に確認することが難しくなる。判断するのも疲れるようになる。見慣れた物を手放すことへの抵抗も強くなるかもしれない。
同時に、自分の体力も落ちる。
50代後半の今は、まだ車で通える。草刈りもできる。重いものを少しは動かせる。業者と話す気力もある。
だが、この先も同じとは限らない。
親が80代になり、自分が60代になると、実家整理は親の問題だけではなく、自分の老後の問題にも重なってくる。退職、健康、夫婦の暮らし、子どもの独立。その中で、何十年分の家の荷物と向き合うことになる。
だから、今できることは小さくても始めた方がいい。
一部屋を片付ける必要はない。
次に実家へ行ったとき、写真を数枚撮る。
書類の場所を一つ聞く。
押し入れを一段だけ見る。
母屋の外回りを記録する。
父の道具を一つだけ確認する。
それだけでも、何もしないよりは進んでいる。
後悔をなくすことはできないかもしれない。
けれど、後悔を小さくすることはできる。
後悔しない整理は、急いで終わらせることではない
実家整理で後悔しないために必要なのは、早く終わらせることではないと思う。
もちろん、危険なものや生活に支障があるものは早めに動かした方がいい。壊れた家電、転倒しそうな荷物、外に飛び出した枝、雨漏りや傷みのある場所は、先に手をつける必要がある。
ただ、思い出や判断が絡むものまで、急いで終わらせる必要はない。
大事なのは、順番を決めることだ。
まず、親の暮らしに関わる場所を見る。
次に、書類や連絡先を確認する。
写真を残す。
判断が必要なものを分ける。
処分できるものから少しずつ減らす。
家族だけで難しい部分は業者に相談する。
この順番なら、親の生活を乱しにくい。
実家整理は、親の人生を片付ける作業ではない。
親が暮らしてきた場所を、これからの家族が扱える形に整えていく作業だと思う。
私の実家も、まだ答えは出ていない。
母屋をどうするか、大工小屋をどうするか、父の道具をどこまで残すか。決めるべきことは多い。すぐに終わる話ではない。
それでも、後悔しやすいところは見えてきた。
聞けるうちに聞く。
撮れるうちに撮る。
探せるうちに探す。
動けるうちに少し動く。
今のところ、私にできるのはそのくらいだ。
定時のあとの時間を使って、少しずつ整えていく。


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