実家の修繕はどこまでやるか|空き家に近い母屋の判断軸

実家の修繕はどこまでやるか|空き家に近い母屋の判断軸 親と実家

実家の母屋は、父が大工として手を入れた家である。

父が六十歳で亡くなったあと、母はそこで二十年以上一人暮らしを続けた。今、母は同じ敷地の離れで暮らし、六十坪を超える二階建ての母屋は、年に数回の法要や荷物の確認で使う場所になった。

古い家には、手を入れたい場所が少しずつ増える。だが、目に入る場所をすべて直すことはできない。私も子どもも、この母屋に住む予定は今のところない。

それでも、傷みをそのままにして周囲へ影響を広げるわけにはいかない。

今回は、実家の修繕を、全部直すか、何もしないかの二択にせず、安全、傷みの拡大防止、今の使用、将来の利用の四段階に分けて考える。


全部直すか、直さないかの二択をやめる

家は、長く使えば一箇所だけが古くなるわけではない。

屋根、雨どい、外壁、窓、扉、水回り、床、電気設備。気になる場所を並べると、家全体を改修する話に見えてくる。

母屋に住む人がいないから、お金をかける意味がないとも感じる。反対に、父が作った家だから、傷んでいるところをそのままにしたくない気持ちもある。

両方をまとめて考えると、結論が出ない。

そこで、「家を新しくする修繕」と「傷みを広げないための対応」を分けて考えることにした。

見た目を整える工事、住み心地を上げる工事、売却や賃貸のための工事は、母屋の出口を決めてからでも遅くない。

一方、人や隣地へ影響するおそれ、建物の傷みを広げることは、使い道が決まっていなくても放っておけない。

修繕の前に、その家を何に使うか書く

同じ破損でも、家の使い方によって対応は変わる。

現在の母屋は、毎日暮らす家ではない。しかし、全く使わない建物でもない。

お坊さんに来ていただく法要が、年に数回ある。掃除のときには照明と水道を使う。荷物を確認するために、一階と二階へ入ることもある。

そのため、今の使用目的は次のようになる。

  • 法要のときに一階の座敷、玄関、トイレを使う
  • 片付けや確認のため、安全に室内へ入れる状態を保つ
  • 建物や草木が道路・隣地へ影響しない状態を保つ
  • 売る・貸す・壊すの結論が出るまで、傷みの拡大を抑える

ここまで書くと、現在必要なのは、二階の全部屋を現代の住宅として快適にすることではない。

使う場所の安全と、建物全体の傷みが広がらないことが先になる。

実家の母屋をどうするか答えが出ない理由と、今の使用目的は分けて書く。気持ちの結論が出ていなくても、今必要な管理は決められる。

修繕の優先順位を四段階に分ける

実家の修繕範囲を地上から確認する50代後半の男性と住宅修繕の担当者

母屋の修繕を考えるときは、気になる場所をすべて一列に並べない。

私は、優先順位を次の四段階に分けておきたい。

優先目的判断
1. 安全と周囲への影響人、道路、隣地への被害を防ぐ落下しそうな屋根材・外壁、破損した窓・鍵、道路側へ出た枝近づかず、使用範囲を止め、早めに専門家へ相談する
2. 傷みの拡大防止水や風の入り口を放置しない雨どい、屋根、開口部、繰り返す雨染み原因と影響範囲を調べ、応急対応と本修繕を分ける
3. 現在の使用法要・掃除・片付けで使う範囲を保つ玄関、通路、座敷、トイレ、照明使う場所と日に必要な範囲へ絞る
4. 将来の利用売却、賃貸、再居住に合わせる間取り、断熱、内装、台所・浴室の更新出口と費用回収の見込みを決めてから検討する

第一と第二は、「住まないから後回し」にしにくい。第三は、実際に使う場所と頻度で範囲を決める。第四は、先に工事するのではなく、家の将来と一緒に決める。

四段階は、工事費の高い順ではない。今の母屋で守るべきものの順である。小さい破損でも人や隣地に影響するなら先に見る。高額な内装工事でも、将来の使い方が未定なら結論を急がない。

国土交通省の空き家管理の案内でも、建物内外の点検と補修を自分で行うのが難しい場合は、管理業者や修繕業者の利用を検討するよう案内している。

自分で直せる範囲を、毎年引き直す

実家の低い窓で網戸を直し高所作業はしない50代後半の男性

どこまでを自分で見て、どこから人へ頼むか。その線は、建物の状態だけでなく、自分の年齢でも動く。

父は大工だった。子どものころ、週末や夏休みには現場へ連れて行かれ、遊んでいるうちに、できることは手伝うようになった。日曜は必ず休むという決まりはなく、仕事は工期に合わせて動く。少なくとも我が家に週休二日はなかった。

学生のころまではアルバイトとして、勤めに出てからも週末に手を貸すことがあった。職人になったわけではないが、何をどう直すのかは一通り目にしてきた。

そのためか、家で不具合が起きても、まず誰かへ頼むという発想にならない。自分の家では、トイレの修理、蛇口の交換、雨どいの直し、網戸の張り替えを自分で済ませてきた。妻の実家で困りごとが起きたときも、サービスを呼ぶ前に一度見に行った。

ただ、その前提が少しずつ変わってきた。

昔は二階建ての屋根にも平気で上がれたが、今は上がろうと思わない。父が残した道具も、そのまま使えるものは減った。無理をして怪我をすれば、修繕どころの話ではなくなる。

外まわりの作業では、先に同じことを感じていた。草刈りが年々こたえるようになったときは、道具を見直せば続けられた。しかし建物の修繕は高さと構造が絡むため、道具を替えれば済む話にはならない。

そこで、自分でやる範囲は、去年できたかどうかではなく、今できるかで引き直すことにした。現在の線引きは次のようになる。

  • 脚立より高い場所と屋根の上には上がらない
  • 電気の配線、ガス機器、給排水の配管など、資格や届け出が要る作業はしない
  • 建物の構造や下地に関わるものは、自分の見立てで決めない
  • 体を使う作業は、実家へ一人で行く日には入れない
  • 迷ったら手を出さず、写真と日付を残して専門家へ渡す

自分で直せるうちは、費用も時間も抑えられる。だが、直せる範囲は年ごとに狭くなる。修繕を書き出すときは、何を、いつ直すかに加えて、誰がやるかまで一緒に書いておきたい。

「今直す」「調べる」「保留する」を分ける

気になる箇所を見つけたとき、すぐ工事を決める必要はない。反対に、工事を決めないことと、何もしないことも違う。

一枚の表に、次の三つの欄を作る。

  1. 今直す、または安全のため使用を止める場所
  2. 原因、影響範囲、費用を調べる場所
  3. 使い方が決まるまで工事を保留する場所

保留の欄に入れたものにも、次に見る日を書く。期限のない保留は、傷みの進行に気づかない先送りになりやすい。

調べる欄に入れたら、工事名だけでなく、どこからどこまでを見てもらうかを書く。

「屋根の修繕」という言葉だけでは、表面の部材なのか、下地なのか、雨どいや軒先も含むのかが分からない。複数の見積もりを比べるなら、対象範囲、材料、仮設工事、廃材処分、追加工事の条件をできるだけそろえる。

見積もりと一緒に、修繕前の状態も残す。場所、日付、地上から見えた範囲、業者が説明した原因と工事範囲を分けて書く。

工事後は、請求書だけでなく、施工した場所、使った材料、保証や次回点検の条件、連絡先を一緒に保管する。次の異常が同じ箇所かどうかを、家族でも専門家でも追いやすくなる。

修繕記録は、工事をしたことを残すだけではない。次に同じ箇所を見る日と、何が起きたら再連絡するかまで書いて、見回りの記録へ戻す。

実家整理の費用は、建物の大きさ、構造、立地、残置物、作業範囲で変わる。実家整理の費用を項目別に考える記事と同じく、総額の数字だけで比べず、何が含まれるかを確認したい。

また、自治体の相談窓口や支援制度は地域と工事内容で異なる。契約後では利用できない場合もあるため、先に実家のある市区町村と工事業者へ確認する。

応急対応と本修繕を同じにしない

立入範囲を静かに区切った実家の室内を確認する住宅修繕の担当者

古い家で異常を見つけたとき、その日にできることは限られる。

窓が壊れたなら、人が入らないようにする。

室内で水の跡を見つけたなら、その部屋を使わない。

外壁や屋根材の落下が気になるなら、建物に近づかず、通る場所を変える。

これらは、被害を広げないための一時的な対応である。原因と影響範囲を見ないまま、家族が表面だけを塞ぐことは避けたい。

空き家に近い実家を放置したときのリスクを整理したときも、天井の染み、床のふわつき、窓や鍵の破損などは、記録と使用停止を先に考えた。

応急対応をしたら、次の三つを残す。

  • いつ、どの場所で何が起きたか
  • 人が入らないために何をしたか
  • 誰へ連絡し、次に何を確認するか

本修繕は、その記録と現地確認をもとに判断する。「ひとまず塞いだから終わり」にせず、次の確認日を置く。

また、不具合の原因が自然災害、老朽化、維持管理、設備の故障のどれに当たるかは、家族だけで決めない。

火災保険に連絡する場合も、空き家に近い実家の火災保険で確認したように、建物の使用状態、契約内容、損害の状況を伝える。保険が使えるかは契約と個別の損害状況によるため、先に断定しない。

修繕しても、家の出口は別に考え続ける

修繕をすると、家を残すと決めたような気持ちになるかもしれない。

反対に、将来壊すかもしれないなら、今は一円もかけない方がよいと考えたくなる。

しかし、安全と傷みの拡大防止のために行う修繕は、永久に残すという意思表示ではない。出口を決めるまでの管理である。

私の母屋は、父の仕事と家族の時間が残る家である。その気持ちは、工事の損得だけでは整理できない。

父には、継いでほしい気持ちと、自分と同じ苦労をさせたくない気持ちの両方があったのだと思う。父が亡くなった年齢に近づいて、ようやくそう感じるようになった。

一方で、国土交通省の空家法の案内にあるように、適切に管理されていない空き家は、特定空家になる前の管理不全空家として自治体の指導等の対象になる場合がある。

ただし、母屋が法律上の「空家等」や管理不全空家に当たるかは、私が決めることではない。母は同じ敷地の離れで暮らし、母屋も法要などで使っている。個別の扱いは実家のある市区町村に確認する。

修繕記録には、工事の日と費用だけでなく、なぜその範囲を直したかを残したい。

安全のため。

傷みの拡大を防ぐため。

法要で使う範囲を保つため。

将来の売却や賃貸を目指すため。

理由が分かれば、家の将来が変わったときに、同じ工事を続けるか見直せる。

今の母屋では、使う範囲と次の確認日を決める

現在の母屋に、家族が把握している範囲ですぐに大規模な改修を決める状況はない。

それでも、外壁、雨どい、建具には年月が出ている。荷物を動かして初めて見える壁や床もある。「まだ大丈夫」と思う日にこそ、次の見方を決めておきたい。

今の私の順番は、次のようになる。

  1. 母屋へ近づいてよいか、外から見る
  2. 道路側、隣地側、雨どい、窓と扉を確認する
  3. 安全に入れる場合だけ、使う場所と通路を見る
  4. 前回と違う箇所を日付・場所と一緒に残す
  5. 今直す、調べる、保留するに分ける
  6. 保留した場所に次の確認日を置く
  7. 工事が必要な場合は、対象範囲をそろえて見積もりを確認する

母屋の将来には、まだ答えが出ていない。

それでも、答えがない期間に何を優先するかは決められる。安全、傷みの拡大防止、現在の使用までを先に見る。将来の利用を前提とする大きな改修は、出口と一緒に考える。

すべてを直すことではなく、直す理由と、今は直さない理由を残す。

その記録が、次の見積もりと家の出口を考える材料になる。

今のところ、それが実家の母屋に対する私の修繕の判断軸である。

定時のあとの時間を使って、少しずつ母屋の傷みと使い方を同じ表に残し、次に必要な修繕を見極めていく。

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