母が平屋の離れへ移り、二階建ての母屋を使わなくなったあとも、電気・水道・ガスの契約はしばらくそのままにしていた。
また使うかもしれない。掃除にも必要になる。お坊さんに来ていただく日もある。
止める理由がはっきりしないまま、三つとも残していた。
その状態が続いていたある日、離れの水回りが故障し、急いで母屋を使おうとした。長く使っていなかったガスコンロに、火がつかなかった。
契約が残っていることと、安全にすぐ使えることは同じではない。母屋の三つの契約を別々に見たのは、このときが初めてだった。
その後、母屋は電気と水道を継続し、ガスを止めた。母屋を今後どうするか決められない中でも、使い方が違う三つの契約を同じ状態にしておく必要はないと考えるようになった。
空き家のライフラインは、全部残すか、全部止めるかでは決めにくい。何に使うのか、誰が確認するのか、再開に何が必要かを、電気・水道・ガスに分けて考える必要がある。
基本料金より先に、その家で何をしているかを見る
誰も住まない家の契約を見れば、基本料金がもったいないと感じる。
私もそう思った。
ただ、母屋へ行くと、電気と水道を使う場面がある。
暗い部屋で建物の状態を見るには照明が要る。法要の前後には掃除をする。年に数回、お経のために来ていただく日には、トイレも使っていただく。
一方、ガスを使って調理や入浴をする予定は、普段はない。
現在の分け方は次のとおりである。
| ライフライン | 現在の扱い | 主な理由 |
|---|---|---|
| 電気 | 継続 | 照明を使い、建物内の確認や掃除をするため |
| 水道 | 継続 | 掃除、トイレ、法要時の利用があるため |
| ガス | 停止 | 普段使う予定がなく、長期不使用後の点検が必要になったため |
これは、どの空き家にも当てはまる正解ではない。
給湯や凍結防止設備に電気が必要な家もある。井戸や浄化槽、警報器など、設備によって止められない電源がある場合も考えられる。水道も地域の寒さや建物の使い方で管理が変わる。ガスの停止・再開方法も契約先によって異なる。
だから、契約の種類だけを見て一括で判断しない。
まず、その家で次に何をするかから考える。
国土交通省の空き家の管理のやり方でも、当面は活用も除却もできない空き家には適切な管理が欠かせないとされている。建物内外の点検、通気・換気、通水、清掃などが、チェックリストとして示されている。
管理を続けるつもりなら、契約の要否は基本料金の額より、その作業に要るかどうかで決まってくる。
電気は「照明が要るか」だけで決めない
母屋の電気を残している一番分かりやすい理由は照明である。
昼間に行くつもりでも、二階や収納、天気の悪い日の室内は暗い。傷みや水の跡、床の状態を確認するには、明るさが必要になる。
しかし、電気を継続するなら、契約があることだけで安心せず、何が通電したままかを確認したい。
使っていない家電が差し込まれたままになっていないか。
冷蔵庫や給湯設備を止めてよいか。
換気、警報、防犯、凍結防止など、止めると困る設備はないか。
分電盤のどの回路が何につながっているか分かるか。
家族の判断だけで機器や配線を触らず、不明な設備は電力会社、電気工事業者、機器の事業者へ確認する。
電気を止める場合も、再び掃除や工事で使う時期、使用開始の手続き、立ち会いの要否を先に聞いておきたい。
誰も住んでいない家でも、管理のために要る電気と、つけたままにしない電気は分けて考えたい。
水道は、使う回数と漏水・凍結の管理を一緒に考える

母屋では、水道を使う日がある。
法要の日のトイレ、掃除、手洗い。使う頻度は多くなくても、水がなければ代わりを用意しなければならない。
水道を残すなら、使える状態を保つことと、水が漏れたときに気づけることを一組にしたい。
元栓や止水栓の位置を家族が分かっているか。
水を使っていないときにメーターが動いていないか。
蛇口、トイレ、給湯設備、屋外配管に異常がないか。
誰も見ていない家で漏水に気づけないままになると、空き家を放置したときに起きることで見た傷みが、床下や壁の内側で進む。
国土交通省が不動産業者向けにまとめた空き家管理受託のガイドラインにも、通電・通水を続ける場合には漏電や漏水のおそれが伴い、料金の支払いも発生すると書かれている。残す側にも負担があるという前提で書かれている。
同じ資料では、寒冷地などで凍結による水道管の破損が心配な場合に、冬季だけ閉栓して水抜きをしておく方法も挙げられている。
一年中同じ状態にしなくてよい。実際に必要かどうかは、地域の水道事業者や設備業者へ確認する。
水道を止める場合も、再開日だけを考えない。配管や給湯設備を長く使わなかったあと、どこを確認してから使うかを聞いておく。
私の家で水道を残す理由は、年に数回使うからである。別の家で利用予定がなく、漏水確認に通えないなら、同じ判断になるとは限らない。
ガスは、長く使わなかったあとの「すぐ使える」を疑う

離れの水回りが故障したとき、私は母屋のガスコンロを使おうとした。
契約が続いているのだから、火がつくと思っていた。
ところが点火しなかった。
連絡した日は契約先の通常の窓口が休みで、別の窓口を通して詳しい担当者につないでもらった。長く使っていない機器を、状態を確認しないまま使うのは避けるよう言われ、容器の交換と点検は休み明けに受けることになった。
このときは、その場で何度も点火を試さず、別の方法で対応した。その後、母屋のガス契約は一旦止めてもらった。
経済産業省のLPガスの安全案内でも、点火しにくい、点火しない、異常な燃え方や臭いがあるときは、器具メーカーかLPガス販売店へ点検を依頼するよう案内している。点火操作を繰り返して、器具にたまったガスへ引火した事故も起きているとして、再点火のときは注意するよう促している。
その場で試し続けなかったことは、結果として間違っていなかったと、あとで分かった。
同じ案内では、LPガスの容器からメーターの出口までを供給設備と呼び、販売店が点検と維持管理を行うとされている。メーターの出口から先の器具や配管は消費設備で、日常の点検と管理は使う側の責任になる。
誰も住んでいない家では、この「使う側」があいまいになりやすい。家族の誰が見るのかを決めていなければ、契約だけが残ることになる。
同じガイドラインでも、空き家の管理でガスの供給が必要になる場面は多くないとされている。通常は供給を止めて閉栓し、プロパンガスなら容器を取り外すのが一般的だと示されている。
私はこのとき、我が家だけの事情で止めたつもりでいた。あとから読むと、使う予定のない家のガスを止めるのは、めずらしい判断ではなかった。
止めたあとも、栓を閉めて終わりにはしない。使っていないガス栓を誤って開けないようにする方法や、器具・容器の扱いは契約先に聞いておく。
ガスが使えないとき、原因を自分で決めつけない。
メーター、容器、配管、器具のどこに原因があるかは、家族だけでは判断できない。都市ガスかLPガスかでも手続きは異なる。
再開するなら、契約先へ連絡し、点検、立ち会い、器具の状態、再開までの日数を確認する。
緊急時に使うつもりなら、なおさら「その日に連絡すれば使える」と思い込まない方がよい。
残すか止めるかは、次の使用場面から逆算する
判断するときは、基本料金の有無だけでなく、次の使用場面を先に書くと分かりやすい。
| 次の使用場面 | 電気 | 水道 | ガス | 先に確認すること |
|---|---|---|---|---|
| 月数回の見回り・掃除 | 照明や必要設備を確認 | 掃除・トイレ・通水の要否 | 通常は使用予定を確認 | 契約、設備、元栓、異常時の連絡先 |
| 法要や親族の立ち寄り | 照明・冷暖房の要否 | トイレ・手洗い | 調理や給湯を使うか | 使用日までの点検と再開期間 |
| 片付け・修繕工事 | 工具や照明の要否 | 清掃や工事で使うか | 工事内容による | 業者へ必要な設備を事前確認 |
| 売却・賃貸の内見 | 室内確認に必要か | 設備確認に必要か | 開栓点検をするか | 仲介業者・管理業者と役割を分ける |
| 当面使う予定がない | 継続設備がないか | 凍結・漏水対策を含め停止判断 | 停止を検討 | 停止方法、再開条件、連絡先 |
国土交通省のガイドラインも、電気・水道の通電・通水を維持するか使用を中止するかは物件の状況による、という立場である。同じ「空き家」でも、答えが一つに決まらないことが前提になっている。
空き家という同じ言葉でも、月に何度も入る家、年に一度しか使わない家、売却準備中の家では必要な契約が違う。
「空き家だから止める」ではなく、「次に誰が何のために使うか」で決める。
契約情報と再開条件を一枚に残す

ライフラインは、止める判断より、数年後に契約が分からなくなることの方が厄介かもしれない。
親名義のままなのか。
請求はどこから落ちているのか。
お客さま番号はどの書類にあるのか。
停止の連絡をしたのはいつか。
再開には立ち会いが要るのか。
設備の点検先はどこか。
一枚の表に、次の項目だけ残しておきたい。
- 電気・水道・ガスの契約先と契約名義
- お客さま番号と請求方法
- 現在の状態(継続・停止・一部のみ使用)
- 元栓、分電盤、メーターの場所
- 異常時と停止・再開時の連絡先
- 最後に使った日、点検した日、次に見直す日
契約者が親の名義のままなら、家族が停止や再開の手続きをできるのかも聞いておきたい。本人確認や委任の扱いは、契約先によって違う。
支払いが親の口座からの引き落としであれば、口座を動かした時期に支払いが止まることもある。誰の名義で、どこから払っているかは、契約ごとに分けて書く。
暗証番号やカード情報を、誰でも見られる表へ書く必要はない。契約確認に必要な番号と、詳しい書類の保管場所を分ける。
実家の書類を探す場所を整理したときと同じように、請求書を一枚見つけて終わりにせず、次に家族が連絡できる形へする。
家の使い方が変わるたびに見直す
母屋の電気と水道を、いつまでも同じ形で残すと決めたわけではない。
片付けが進み、法要の場所が変わり、売る・貸す・壊すの判断が進めば、必要な契約も変わる。
反対に、修繕や一時的な生活で再び使うなら、停止していた設備を安全に戻す準備が要る。
建物を同じ順番で見て変化を記録するのと同じで、ライフラインも継続か停止かを書くだけでは足りない。見直す日を先に置いておくと、決めたまま忘れずに済む。
年に一度、契約と利用目的が合っているかを見る。
大きな修繕や片付けの前に、業者へ必要な電気と水道を聞く。
売却や解体の相談を始めたら、停止時期を確認する。
家族が通えなくなったら、管理業者や地域の相談先を検討する。
業者へ任せるときは、電気・水道・ガスの契約状況を先に伝えることになる。業者向けの資料であるだけに、料金を誰が払うのか、受託者の責任によらない漏電や漏水が起きたときにどう扱うのかまで、契約で決めておくことが望ましいとされている。任せる範囲を口頭で済ませない。
空き家になりかけた実家の火災保険と同じく、契約を続けているだけで管理が終わるわけではない。今の家の使い方に契約が合っているかを確かめる必要がある。
母屋では、電気と水道を残し、ガスを止めた。
三つを別々に決めたことで、掃除や法要に必要なものは使え、普段使わないガスを「いつでも使えるはず」と思い込まずに済むようになった。
空き家のライフラインに、一つの正解はない。
使う目的、安全に確認できる人、異常に気づける頻度、再開に必要な手続きを並べ、その家に合う形を決める。
定時のあとの時間を使って、少しずつ実家の契約と管理を今の使い方に合わせていく。

