実家の母屋には、今は誰も住んでいない。
母は同じ敷地の離れで一人暮らしをしている。母屋を使うのは、年に数回の法事や荷物を確認するときくらいだ。以前は母が風を通していたが、体力が落ちて回数が減り、今は私が実家を訪ねたときに様子を見ている。
放置すると、家が一夜で崩れるわけではない。
雨どいの落ち葉、伸びた枝、窓の傷、天井の染みのような小さな変化が見過ごされ、建物の外へ影響が出てから問題になる。家の中だけの傷みが、近所や道路、行政との問題へ広がる。それが放置の怖さだと思う。
この記事では、売る・貸す・壊すという最終判断ではなく、母屋の変化をどの段階で記録し、誰かに見てもらい、立ち入らない判断へ切り替えるかを整理したい。
我が家の母屋は「空き家に近い状態」にある
普段の会話では、誰も住んでいない母屋を空き家と呼んでいる。
ただし、空家法の「空家等」は、建築物が居住その他の使用をされていないことが常態であるものと定められている。母は同じ敷地の離れに住み、母屋も法事などで時々使う。法律上どのように扱われるかを、私だけで決めることはできない。
そのため、この記事では「日常の居住がなく、管理の回数が減った母屋」という意味で、空き家に近い状態と書く。
呼び方より大事なのは、毎日の生活で自然に行われていた管理が止まっていることだ。
窓を開ける。水を流す。床を歩く。雨のあとに天井を見る。郵便物を片づける。庭の変化に気づく。
人が住まなくなると、こうした小さな確認が抜けていく。近所の空き家を見て問題を自分ごととして考え始めた経緯は、実家の空き家リスクが自分ごとになったときに書いている。
放置は、小さな変化が外へ広がることだった
国土交通省が示す空き家放置のリスクには、倒壊、外壁の落下、害虫、悪臭、不法侵入、枝のはみ出しなどが挙げられている。
どれも突然始まるというより、最初の小さな変化を見逃した先にある。
| 最初に見える変化 | 放置すると広がる先 | 家族が最初にすること |
|---|---|---|
| 雨どいの落ち葉、外壁や軒先の傷 | 雨水の流れや部材の落下 | 地上から写真を撮り、前回と比べる |
| 天井の染み、床のふわつき | 雨漏りや内部の傷み | 使用を止め、建築の専門家へ相談する |
| 庭木や垣根の伸び | 道路・隣地へのはみ出し | 境界側を優先し、安全な範囲で手配する |
| 郵便物、壊れた窓や鍵 | 不在が外から分かる状態 | 郵便物を回収し、開口部の修理を手配する |
| ごみ、動物の痕跡、におい | 衛生や近隣への影響 | 原因を確認し、自分で難しければ業者へ相談する |
私は以前、「次に来たときに見ればいい」と考えがちだった。
しかし、次の訪問まで同じ状態とは限らない。大切なのは、異変を見つけた日にすべて直すことではなく、前回と違うものを記録し、次の行動を決めることだった。
建物は、地上から見える範囲を先に確認する

母屋は木造二階建てで、父が大工として手を入れた家だ。思い入れがある分、傷みを認めたくない気持ちもある。
それでも、訪問時には感情と点検を分けることにした。
まず外から、屋根材のずれ、雨どい、軒裏、外壁、窓、基礎まわりを見る。室内に入れる状態なら、天井の染み、床、窓の内側、水回り、においを確認する。
屋根へ上がったり、高い場所へ脚立をかけたりはしない。地震や台風のあとに傾き、落下しかけた部材、大きなひびなどが見えるときも、確認のために近づかない。
「自分で見ること」と「専門家に見てもらうこと」を分けないと、管理のためにけがをする。
小さな傷でも、写真の日付と場所を残しておけば、広がっているかを比べられる。修繕するかどうかは、その変化と今後の使い方を見て決めればよい。
写真だけを増やすと、あとでどこを撮ったのか分からなくなる。
私は、外観の正面、道路側、隣地側、雨どい、室内の天井と床というように、毎回ほぼ同じ場所を同じ順番で見る方がよいと考えている。写真の名前やメモには、日付、場所、前回との違いを短く残す。
変化がなければ「変化なし」と書く。それも、見ていないのではなく確認した記録になる。新しい染みやひびを見つけた場合は、大きさを断定せず、どの場所に何が見えたかと、次に誰へ相談するかを分けておく。
一度の写真で安全を判断するためではなく、前回と違う状態を見落とさないための記録にする。
記録の保存場所も一つに決める。写真だけがスマートフォンに残り、対応メモが別の紙にあると、家族が経過を追いにくい。建物の場所ごとに写真と短いメモをまとめ、修繕や剪定を頼んだ場合は、連絡日と確認する人も同じ場所へ残しておく。
庭と道路側は、室内より先に周囲へ影響する

母屋の中の傷みは、家族が扉を開けなければ見えない。
庭木、垣根、草、郵便受け、外れかけた雨どいは、道路や隣家から毎日見える。空き家に近い状態だと分かるのも、この外側からだ。
今の私が最も時間を取られているのは、庭と外まわりの管理である。
春から草が伸び、初夏には一気に作業が増える。道路側の枝や垣根は、人や車の通行へ影響するため後回しにしにくい。広い庭を一度に整えようとすると体が続かないので、道路側、隣地との境界、建物まわりの順に見るようになった。
家全体をきれいに保つことより、外へ影響する場所を先に止める。
自分で安全にできる範囲を超えた枝、高い木、電線に近い場所は、無理に切らず業者へ相談する。私自身も年を重ねれば、今と同じ草刈りや剪定はできなくなる。その前提で、外へ頼む作業を分けておきたい。
「記録・手配・立入中止」の三段階に分ける
空き家の点検で迷うのは、どこまでなら次回まで待てるのかということだ。
建物の状態や天候によって判断は変わるが、我が家では行動を三段階に分けて考えることにした。
| 段階 | 例 | 行動 |
|---|---|---|
| 記録して次回比較 | 雨どいの落ち葉、草、軽い汚れ、新しい小さな染み | 日付・場所・写真を残し、次回の確認日を決める |
| 早めに手配 | 雨どいの外れ、窓や鍵の破損、繰り返す雨染み、道路側への枝 | 使用範囲を止め、修繕・剪定・管理の相談先へ連絡する |
| 立ち入らず連絡 | 明らかな傾き、屋根や外壁の落下のおそれ、地震後の大きな損傷、煙やガス臭 | 建物へ近づかず、状況に応じて消防・ガス会社・自治体・専門家へ連絡する |
この表は建物の安全を判定するものではない。家族が無理に中へ入らず、連絡へ切り替えるための目安である。
点検や補修を自分で行うのが難しい場合、国土交通省も空き家管理チェックリストと管理業者等の利用を案内している。
自分でできないことを放置と同じにしない。できない作業は、頼む作業として記録する。
行政からの連絡を待つ前に、市区町村の窓口を確認する
適切な管理が行われず、放置すれば特定空家等になるおそれがあるものは、管理不全空家等として市区町村から指導や勧告の対象になることがある。
さらに状態が進めば、特定空家等に対する措置の対象になり得る。
管理不全空家等や特定空家等について勧告を受けると、敷地にかかる固定資産税等の住宅用地特例から外れる場合がある。単に「古い家を残せば税金が安い」とは考えられない。税の仕組みは、空き家の固定資産税と住宅用地特例に分けている。
我が家の母屋がどの扱いになるかは、市区町村が個別の状態を見て判断する。私が今すぐ管理不全空家だと決めつける必要も、行政から連絡が来るまで待つ必要もない。
まずは実家のある市区町村で、空き家相談の担当課、相談できる内容、管理や除却の支援制度があるかを確認しておく。制度や支援の条件は自治体ごとに異なるため、工事や契約を先に決める前に聞く方がよいと思う。
記録と最終判断は、別々に進める

母屋を放置しないことと、すぐに売却や解体を決めることは同じではない。
母はまだ離れで暮らしている。母屋には仏壇があり、法事で使う。父の道具が残る大工小屋もある。家族の暮らしと気持ちを無視して結論を急ぐことはできない。
一方で、結論が出ないことを理由に記録まで止める必要もない。
私は次の訪問で、同じ順番で確認できる一枚を残したい。
- 確認した日と、前回からの天候や災害
- 屋根・雨どい・外壁・窓を地上から見た変化
- 道路側・隣地側の草木
- 室内へ安全に入れる場合の天井・床・水回り
- 郵便受け、鍵、電気・水道の状態
- 写真の保存場所
- 次に確認する日
- 家族でできない作業と連絡先
一枚の記録には、見つけたことだけでなく、対応の状態も残す。
たとえば「道路側の枝」は、確認済み、業者へ連絡済み、作業日待ち、完了というように進み方を分ける。「北側の天井の染み」は、写真を保存した日、次に確認する日、室内を使わない範囲、相談先を一行にまとめる。
誰かへ連絡しただけで終わったことにせず、いつ何を確認するかまで書く。反対に、家族で直せないものを未完了のまま抱え込まず、「専門家の確認待ち」と記録すればよい。
これなら、私が次に行けないときも、家族が前回の状態と現在地を確認できる。
通帳や登記識別情報、鍵番号などを写真へ写し込まず、建物の状態と書類の所在を分けて残す。
売る・貸す・壊す・期限を決めて保留する判断は、実家を売るか・貸すか・壊すかの判断軸で整理している。048で先に決めるのは、その結論ではなく、結論が出るまで家をどう見ておくかだ。
空き家の放置は、何もしない一日ではない。
気づかなかった変化が積み重なり、家の外へ影響が広がる時間だ。
記録する。手配する。危険なら入らない。
この三つを曖昧にしないことから始めたい。
定時のあとの時間を使って、次の訪問で見る場所を一つずつ整えていく。

