再雇用・転職・働かないをどう比較するか

再雇用・転職・働かないをどう比較するか 人生後半

定年後の選択肢は、今の会社での再雇用だけではない。

別の会社へ移る。短い時間だけ働く。副業を持つ。いったん働かない。書き出せばいくつもあるのに、私はほとんど「収入が多い方」だけで考えてきた。

30代のとき、父が闘病生活に入り、祖母を含めた家族が私の扶養に入った時期がある。稼ぐしかないという前提は、そこから長く続いた。楽な方を選ぼうと考えたことはない。

私は50歳で、30年近く勤めた会社から同業他社へ転職した。そのとき、給与や役職の条件だけでは、転職後の暮らしまでは分からないと知った。

今度の選択では、月収だけで比べたくない。再雇用・転職・働かないの三つを、収入、時間、役割、戻りやすさという同じ軸で整理してみる。

同じ会社に残ることが、いちばん分かりやすく見えた

定年が近づくまで、私は今の会社で定年まで働くことを前提にしていた。

現職の定年は65歳である。まだ数年あり、その先の条件は具体的に確認していない。それでも、同じ会社に残れば、仕事の内容、人間関係、通勤、会社の進め方は分かっている。

この「分かっている」という安心感は大きい。

一方で、今の仕事の延長だと思い込むと、条件の変化を見落とす。定年前と定年後で、契約期間、勤務日数、業務、責任、賃金が同じとは限らない。

厚生労働省の説明では、65歳未満の定年を定める事業主には、65歳までの雇用確保措置が求められる。一方、70歳までの就業機会確保は努力義務であり、70歳定年を義務付けるものではない。自分が希望する条件まで保証されるわけでもない。厚生労働省の高年齢者雇用対策で、今の位置付けを確認した。

定年を65歳のゴールではなく入口と考え始めたことは、制度の線と、自分の暮らしの線を分けるきっかけになった。

再雇用は「今までの続き」とは限らない

慣れた職場のロッカーへ上着を掛ける50代後半の会社員

再雇用の良さは、変化が比較的小さいことだ。

職場までの道、会社のルール、仕事で連絡する相手が分かっている。新しい業界用語を一から覚える負担も少ない。

ただし、同じ席に座り、同じ仕事をしても、契約の中身まで同じとは限らない。

私が過去の職場で見た先輩の中には、定年後も似た業務をしながら、給与が大きく下がった人がいた。当時の制度と今の制度は同じではない。その経験を、今のすべての会社に当てはめることもできない。

それでも、「仕事が変わらないなら、暮らしも変わらない」と考えないための材料にはなる。

再雇用で先に聞きたいのは、次のような条件である。

  • 契約期間と更新の判断時期
  • 業務内容と責任の範囲
  • 1週間の勤務日数と勤務時間
  • 給与、賞与、手当、退職金の扱い
  • 健康保険、厚生年金、雇用保険の加入
  • 配置転換や通勤場所の変更可能性

役職名が残るかどうかより、一週間の生活がどうなるかを聞く。その方が、定年後の自分には役立つと思う。

転職は、給与より「何が消えるか」も見る

私は50歳で転職した。

自分が転職するとは、長いあいだ考えていなかった。若いころに一度は考えたことがあったが、35歳を過ぎたら難しいと自分で決めていた。50歳で会社を移ることになるとは、当の自分が想定していなかった。

考え始めたきっかけは、動画で流れてきた働き方の話だった。眺めていた中に、思い当たるものがあった。そこから、自分にも別の道があるのかと考えるようになった。実際に動いたのは、その後のことだ。

家族はすぐには賛成しなかった。時間をかけて話し、最後は自分で決めた。この決め方は、後から効いてきた。条件が思い通りにならなかった時期も、誰かのせいにはできなかったからだ。

前職は30年近く勤めた会社だった。仕事の経験だけでなく、困ったときに誰に聞けばよいか、どこまで説明すれば意図が伝わるかまで、身に付いていた。

転職後、最初に減ったのは、そうした説明のいらない関係だった。同業でも、会社が変われば、信用も仕事の進め方も一から作り直すことになる。

また、転職初年度は、年収が想定した水準に届かなかった。条件の主な内容は書面にあったが、年収の計算方法や変動する部分までは確認できていなかった。

その一方で、定時後の時間は増えた。ブログや英会話に使える時間が生まれた。30年勤めた会社を辞めて気づいたことを振り返ると、良かったか悪かったかの二択では表せない。

前職より会社の規模は小さいが、この数年は凝縮したように学ぶことが多かった。良いことも、そうでないことも含めてだ。当時を採点するなら60点。ぎりぎり合格と自分で納得できる限界だった。それでも後悔がないのは、自分で決めたからだと思う。

定年後に別の会社へ移るときも、同じだと思う。その頃には転職というより再就職に近い言い方になるが、確かめることは変わらない。

給与が上がるか。通勤は何分増えるか。新しい環境でどこまで責任を持つか。家族や親の用事が入ったとき、休みを調整できるか。

採用通知に書かれた数字だけでなく、その数字を受け取るために何を差し出すかまで見たい。

年齢で選択肢が閉じるとは限らなかった

仕事帰りの駅でスカウトの電話を落ち着いて聞く50代後半の会社員

転職して数年が経ったころから、スカウトの電話を数回もらうようになった。

前の転職で使った登録は消したつもりでいたが、どこかに残っていたのだろう。用件は、ベテランの技術者として、あるいは中小企業の管理職として、という内容だった。同じ業界に長く勤めた結果なのかもしれない。業界によっては人手不足や後継者不足があるようだ。

ただ、たまたま今の業界でいろいろな条件が重なっただけで、運が良かっただけかもしれない。声がかかることを前提に計画は立てられない。

一度転職しているので、転職そのものへの抵抗はなかった。それでも、そのときは変わろうという気持ちがなかったので、丁重に断った。一番の理由は、同じ業界にいたかったことである。同じ業界からの誘いもあったが、そちらは今の仕事と近すぎたので断った。

会社を辞めることには、送り出す側から見れば裏切りの側面もあると思う。それでも、働く側としては、自分に合って条件の合う場所で働きたい。

以前の私なら、つらいことがあっても耐えて会社に尽くすのが会社員だと考えたかもしれない。今は、自分が一番成果を出せる場所で働く方が、会社にとっても自分にとってもよいと思っている。

会社は組織として動くもので、個人の人生の責任まで引き受ける仕組みにはなっていない。責めているわけではなく、少し離れた距離感の方が、お互いに続けやすいと考えるようになった。会社に寄りかからず、自分の足で立っていられるようにしておく。この歳になって、ようやくそう思えた。

この数回の電話で変わったのは、条件そのものより、比べ方だった。定年後の選択肢は、会社から示されるものだけとは限らない。だから私は、再雇用か働かないかの二択で考えるのをやめた。

働かない選択は、収入ゼロだけの問題ではない

働かない選択を考えると、最初に出てくるのは収入の不安である。

給与がなくなり、年金と資産から暮らす。健康保険や税金も、給与天引きの後ろに隠れていた部分が自分の手元へ出てくる。家計の確認は欠かせない。

しかし、お金が足りれば、働かない準備が完了するわけでもない。

仕事は、収入と同時に一日の枠も作っている。起きる時間、家を出る時間、誰かと話す理由、一日を終える区切りが、仕事によって自動的に置かれる。

私が怖いのは、暇になることそのものより、自分で一日を始めて終えられるかである。

働かない選択には、通勤や仕事の緊張から離れられる良さがある。親の用事、自分の通院、家族との時間も取りやすくなる。

その代わり、毎日を仕事が組み立ててくれる状態は終わる。退職後の一日に起きる時間と週の固定点を置く考え方を、平日の休みで小さく試しておく必要がある。

三つの選択肢を、同じ四つの軸で比べる

再雇用・転職・働かないの三つは、別々に考えると比べにくい。

再雇用は会社から示された条件、転職は求人票、働かない場合は家計表と、見る紙が違うからだ。

そこで、私は四つの軸だけを、同じ一枚に置くことにした。

比べる軸再雇用転職働かない
収入手取り、賞与、更新後の変化年収の計算方法、試用期間、退職給付年金、資産からの取り崩し、税・保険料
時間勤務日数、仕事量、通勤通勤、残業、休みの調整一日の枠、運動、家族と親の予定
役割旧役職と新しい業務の境界経験をどこまで使えるか会社の外で誰とどう関わるか
戻りやすさ契約終了後の次の選択合わない場合の再転職仕事を離れた後の再就職とスキル維持

この表で、すぐに結論は出ない。

しかし、それぞれの良いところだけを比べることは避けられる。再雇用なら安心感、転職なら新しい収入、働かないなら自由な時間。その裏にある条件も同じ紙に出てくる。

この表に、副業は入れていない。

長いあいだ、私は副業に良くない印象を持っていた。言葉としては知っていたが、自分がするものだとは考えていなかった。会社の外に小さな場所を作り始めてから、その見方は変わった。副業は三つのどれかの代わりになるものではなく、どれを選んでも足せるものだと思う。だから同じ表には並べず、選んだ後に置く枠として別に持っておく。

比較は月収ではなく、12か月分で行う

三つの選択肢を電卓と時計で一年分比較する50代後半の会社員

働き方の条件を見るとき、月収は分かりやすい。

ただ、暮らしの差は月収だけには出ない。

賞与はあるか。交通費はどこまで支給されるか。車通勤なら、燃料代、保険、車の買い替えも続く。通勤日の昼食や仕事用の衣類は、働かなければ減るかもしれない。

逆に、家にいる時間が増えれば、光熱費や日中の食事は変わる。働かない期間があれば、給与天引きだった健康保険や住民税の支払い方も変わる。

退職金も月収とは分けたい。退職金を受け取る前に税金と使い道を分けた考え方のように、まとまったお金は毎月の不足を隠しやすいからだ。

比べる単位は、手取りの月収ではなく、次の12か月とする。

  • 12か月間の手取り収入
  • 働くために増える支出
  • 働かないことで減る支出
  • 税金と社会保険料
  • 自由になる日と、仕事に使う日

お金と時間を別々に評価するのではなく、両方を12か月分だけ置いてみる。そうすれば、「給与が下がるから不利」「収入がないから不安」という一言で終わらずに済む。

どの道を選んでも、退職の翌月には健康保険と住民税の手続きが来る。退職後の健康保険と住民税では、任意継続の20日と国保の14日、退職時期で変わる住民税の納め方を調べた。

今は結論より、譲れない条件を一行にする

私は、再雇用・転職・働かないのどれを選ぶか、まだ決めていない。

今の会社での65歳以降の条件も、具体的に確認できていない。転職先を探しているわけでもなく、働かずに暮らせる金額を確定できたわけでもない。

この段階で一つに決めると、後から出てきた条件を、最初の結論に合わせることになる。

今、先に決めたいのは選択肢ではなく、譲れない条件である。

私の場合は、親の用事と自分の健康のための時間を残すこと。会社の役割だけで一週間を埋めないこと。それでいて、家計を急に不安定にしないことだ。

この三つも一度に書くと長い。だから、まず一行にする。

平日に自分で使える日を、1週間に少なくとも1日残す。

この条件を満たすなら、再雇用でも転職でも検討できる。満たさないなら、給与が高くても、私が望む定年後とは少し違う。

そのうえで、収入だけで決めたくないとも思っている。子育ての役割は終わり、今は親のことと自分の終活を考える時期に入った。会社員として働ける時間にも終わりがある。残りをどう働き、何に貢献して終えるか。それも同じ紙に置いておきたい。

引退したあと、どれを選んでも100点にはならないと思う。それでも、悔いが残らない側を選びたい。

定年後の選択は、会社から条件を出された日に始めるのでは遅い。今は職場を選ぶ前に、手放したくない一日を先に決めておく。

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