実家の母屋をどうするか、まだ答えは出ていない。
売るのか。
貸すのか。
壊すのか。
三つを並べると、どれかを選ばなければ前へ進めないように見える。
けれど、私の実家では、母が離れで暮らしている。ほとんど使っていない母屋にも、仏壇があり、年に数回はお坊さんに来ていただく。
いま必要なのは、三択から急いで一つを選ぶことではない。
選べる状態にするため、何を確かめるかだと思う。
三つの選択肢を、同じ土俵に置かない
売る、貸す、壊すは、同じ建物についての選択肢でも、起きることは違う。
売れば、買う人へ土地や建物を引き渡す。
貸せば、所有者のまま、住める状態を保ち、管理を続ける。
壊せば、建物はなくなるが、土地の管理と税金は残る。
どれも「実家問題が終わるボタン」ではなかった。
私は以前、売れなければ貸す、貸せなければ壊す、という順番で考えていた。しかし、貸すには修繕と管理が要る。壊すにも費用がかかり、その後の草刈りや境界管理は続く。
選択肢を比べる前に、何が残るかを見る必要がある。
父が手を入れた母屋を資産や負担だけでは割り切れない気持ちは、実家の母屋に答えが出ない理由に書いた。
036で整理したいのは、その気持ちを残したまま、判断材料を集める順番だ。
最初に決めるのは、今使っている範囲

私の実家では、母が離れで一人暮らしをしている。
母屋はほとんど使っていない。ただ、実家全体が空いているわけではない。
ここを曖昧にしたまま、「実家を売る」と大きく考えると、母の暮らしまで一緒に動かす話になってしまう。
最初に確認したいのは、処分方法ではなく、今の生活に必要な範囲だ。
母が毎日使う場所。
仏壇や年中行事のために使う場所。
家族が出入りする場所。
今は使っていない場所。
土地や建物をどこまで一体として扱う必要があるかは、登記や接道、設備のつながりによっても変わる。私の頭の中だけで母屋と離れを切り分けることはできない。
母の意思を聞き、生活範囲を図面や現地で確かめる。
そのあとで、何について売却・賃貸・解体を考えるのかを決める。
この順番なら、母が暮らしている家を、家族の都合だけで「空き家」と扱わずに済む。
売る・貸す・壊す・保留を、同じ表で比べる
現時点の判断材料を、四つに分けてみた。
| 選択 | 最初に確かめること | 先に必要になる負担 | 選んだあとに残ること |
|---|---|---|---|
| 売る | 所有者、境界、接道、土地の区分、買い手の見込み | 査定、家財整理、条件調整 | 引き渡しまでの管理、契約・税の確認 |
| 貸す | 住める状態か、借り手が見込めるか | 修繕、募集、契約準備 | 設備対応、入居者対応、継続管理 |
| 壊す | 解体範囲、見積条件、解体後の税と使い道 | 家財整理、解体費、手続き | 草刈り、境界、土地の税と管理 |
| 保留する | 傷み、安全、次に見直す日 | 点検、換気、庭や外回りの手入れ | 管理を続ける人、費用、見直し期限 |
表にすると、「安そうなもの」を選ぶだけでは決められないことが分かる。
売却価格がついても、家財整理や境界確認が必要になる。
家賃が入っても、修繕と管理が続く。
解体しても、土地は残る。
保留にも、点検と期限が要る。
結論を出していない状態と、何もしない状態は同じではない。
土地と建物を、一枚の「実家」にまとめない
実家には、母屋と離れ、大工小屋がある。農地も何か所かに分かれている。
私は以前、田舎の土地は需要が低く、宅地や農地をまとめて動かしにくいと考えていた。
しかし、宅地、建物、農地は、同じ手続きで動かせるとは限らない。
農林水産省の案内では、農地を売買または貸借する場合、農業委員会の許可を受ける方法など、法律に基づく手続きが必要とされている。農地転用にも別の制度がある。
農林水産省「農地の売買・貸借に関する制度」を確認し、まず地目と場所を整理して農業委員会へ相談する話だと分かった。
また、売る、貸す、壊すの前提になるのは、現在の所有者が誰かということだ。
相続で取得した不動産の登記申請は、2024年4月1日から義務化されている。過去の相続でも未登記なら対象になる場合があるため、個別の期限を含めて法務局や司法書士へ確認する必要がある。
法務省「相続登記の申請義務化について」を確認したうえで、実家では固定資産税の通知と登記情報を照らし合わせたい。
名義確認をどこから始めるかは、実家の名義を確認しておくべき理由に分けている。
036では、土地ごと、建物ごとに条件を分けることを判断の入口にする。
数字は一つではなく、幅で集める

「実家はいくらで売れるか」
「貸すなら修繕にいくらかかるか」
「壊すなら総額はいくらか」
答えを一つだけ早く知りたくなる。
けれど、最初の数字を結論にすると、前提の違いを見落としやすい。
売却なら、似た地域の取引情報と、実際の査定は別に見る。
国土交通省の不動産情報ライブラリでは、取引価格、地価、都市計画、周辺施設などを確認できる。ただし、そこにある地域の情報だけで、個別の実家の売却価格が決まるわけではない。
貸すなら、最低限必要な修繕と、より長く使うための修繕を分ける。
壊すなら、母屋だけか、大工小屋や家財も含むのかを揃えて見積もる。
見積もりを比べるときは、金額だけでなく、範囲をそろえたい。
含まれる建物。
家財や庭木の扱い。
追加費用が生じる条件。
工事後の整地。
期限と支払い時期。
数字は、決めてもらうために集めるのではない。
選択肢ごとの前提と、負担の幅を知るために集める。
壊したあとの税と、保留中の管理を分ける
建物を壊せば、屋根や床の傷みを確認する負担はなくなる。
一方で、住宅が建っている土地に適用される住宅用地特例は、解体後の利用状況などによって扱いが変わる。固定資産税がどうなるかは、解体前に市区町村の税務担当へ確認したい。
また、建物を残していれば特例が必ず続く、という話でもない。
国土交通省は、管理不全空家や特定空家について、指導に従わず勧告を受けると住宅用地特例を受けられなくなると案内している。
国土交通省「空家法とは」で制度を確認し、解体する場合と残して管理する場合を分けて考える必要があると分かった。
保留するなら、次の見直し日を決める。
台風や地震のあと。
外壁や建具の傷みが進んだとき。
母の暮らし方が変わったとき。
見積もりや名義確認が一段進んだとき。
判断を延ばす期間にも、建物の安全と周囲への影響を確認する責任は残る。
保留中の管理については、空き家を放置すると何が起きるかに整理している。
相談先を一つにまとめない
実家のことを相談するとき、私は一人の専門家に全部の答えを求めたくなる。
しかし、確認したいことによって相談先は変わる。
名義や登記は、法務局や司法書士。
農地の売買・貸借や転用は、地域の農業委員会。
固定資産税と解体後の土地の扱いは、市区町村の税務担当。
売却や賃貸の需要は、その地域を扱う不動産事業者。
建物の解体範囲と費用は、現地を確認する解体事業者。
同じ人に聞けば、すべて中立な答えが一度に出るわけではない。
不動産事業者には売却・賃貸の条件が見え、解体事業者には工事の条件が見える。それぞれの立場から得た材料を、家族側で一枚に戻す必要がある。
相談前に用意するのは、分かる範囲でよい。
固定資産税の通知。
登記情報や公図。
建物と敷地の写真。
母が今使っている場所。
分からない土地や建物の一覧。
ここでは、登記識別情報の番号など、他人に見せる必要のない情報を安易に撮影・共有しない。
相談した日、相手、確認できたこと、まだ分からないことも残しておく。
結論を尋ねるより、選択肢ごとの条件を持ち帰る。
そうすれば、勧められた方法をその場で決めず、家族の事情へ戻して考えられる。
いま決めたのは、結論ではなく確認する順番
私の実家は、今すぐ売る、貸す、壊すのどれかに決める段階ではない。
母の暮らしが続いている。
母屋には仏壇がある。
土地と建物の名義や区分を、まだ一枚に整理できていない。
修繕、売却、解体の数字も、条件をそろえて比べていない。
だから、今の答えは「決めない」ではなく、確認する順番を決めることだ。
まず、母が使う範囲と意思を確かめる。
次に、土地と建物を分けて名義・地目・接道などを見る。
そのうえで、売却、賃貸、解体、保留の負担を同じ表へ戻す。
父の仕事が残る母屋を壊すことには、今も気持ちが動く。
その気持ちを急いで消す必要はないと思う。
ただ、気持ちだけで建物の傷みや次の世代への負担を見えなくしないようにする。
定時のあとの時間を使って、実家の選択肢を一つずつ減らすのではなく、選べる材料を一つずつ増やしていく。

