親が施設に入った後、実家をどうするか|実家じまいを急がないための順番

親が施設に入った後、実家をどうするか|実家じまいを急がないための順番 親と実家

親が施設へ入ったら、残った実家をどうすればよいのだろう。

売る。貸す。片付ける。壊す。選択肢だけを並べれば簡単に見える。けれど、入居した日から親が新しい暮らしに落ち着くとは限らない。家には衣類、書類、思い出の物が残り、電気や水道、保険、税金、庭の管理も続く。

母はまだ施設へ入っていない。ただ、60坪を超える二階建ての母屋から、同じ敷地の平屋の離れへ移った。母屋は空き家に近くなったが、すぐには閉じられなかった。年に数回の法要と掃除、トイレのため、電気と水道は残した。長く使わなかったLPガスは、点火できなかったときに相談し、点検前の使用を避けた後で解約した。

暮らす場所が変わる日と、家を閉じる日は同じではなかった。

最近、母屋へ入ったとき、床の軋みが以前より大きくなったと感じた。二階の天井裏では、何かがいる気配がある。鳥なのか、蝙蝠なのか、ネズミなのか、私には分からない。天井裏へ上がって確かめる気にはならなかった。人の出入りが減った家に、別のものが入り込む。人が住まなくなると建物の傷みが早くなるとよく言われるが、その速さを今、感じている。

家を閉じる日を急がないと決めても、家の側は待っていてくれない。

この経験を、将来母が施設へ移った場合に当てはめると、実家じまいの前に「戻れる期間」と「誰が管理するか」を決める必要があると思う。今回は、施設入居直後から実家の出口を決めるまでの順番を整理した。

施設入居と実家じまいを、同じ日に始めない

施設への入居は、本人にとって大きな変化である。

新しい部屋、食事、職員、他の入居者、生活時間に慣れるまでの感じ方は、人によって違う。体験入居なのか、本契約なのか。医療や介護の状態が変わった場合も住み続けられるのか。入居直後には、まだ分からないことがある。

一方、実家の片付けや売却は、進めるほど元へ戻しにくくなる。

私は、最初に次の二本を分けたい。

施設側で確かめること実家側で止めずに続けること
本人が眠れ、食べられ、落ち着いて過ごせるか建物の戸締まり、郵便、漏水、外回りの確認
必要な介護・医療用品が足りているか税、保険、電気・水道等の支払い
家族との連絡が続くか重要書類と貴重品の保管
入居を続ける意思を本人へ確認できるか本人の確認前に家財を処分しないこと

施設での暮らしが続く見通しと、本人の意思を確認する前に、家を空にしない。

これは実家をいつまでも残すという意味ではない。戻れない決定を少し遅らせ、その間に管理を途切れさせないという意味である。

入居直後は、家を処分するより管理者を決める

実家の玄関前で予備鍵と見回り記録を引き継ぐ50代のきょうだい

人が住まなくなった家で最初に困るのは、誰が見るかが曖昧になることだと思う。

家族が複数いると、「近くの人が見ているだろう」「施設の手続きで忙しいから後で」となりやすい。私の家では、私が実家へ行くとしても片道45分から1時間以上かかる。仕事や出張があれば、すぐには動けない。

入居前に、少なくとも次を決めておく。

  • 鍵を持つ人と予備鍵の保管場所
  • 郵便物を確認する人
  • 建物と庭を見に行く人、行けない場合の代わり
  • 電気、水道、ガス、保険、税の通知を受ける人
  • 近隣や自治体から連絡が来たときの窓口
  • 緊急修繕をどこまで判断してよいか
  • 本人へ確認する必要があること

家族の担当を決めるときは、「実家を任せる」では広すぎる。記録、現地確認、支払い、業者との連絡、本人への説明に分ける。遠くに住む家族も、予約、見積書の整理、支払記録、施設での本人確認を担える。

現地で見た内容は、空き家管理の見回り記録と同じ形で、日付、場所、前回との差、その日の対応、次に動く人を残す。見に行った人の記憶だけにしない。

電気・水道・ガスは、一括で止めない

親が施設へ移れば、光熱費をすぐ止めたくなる。

しかし、片付けや掃除で照明を使う。トイレや手洗いに水が要る。冬は配管の凍結対策が必要な地域もある。防犯設備、給湯、浄化槽など、契約を止めることで別の確認が必要になる設備もある。

我が家の母屋では、電気と水道を残し、ガスを止めた。三つを同じ判断にしなかったのは、使う目的が違ったからである。

実家の電気・水道・ガスをどう管理するかで整理したように、契約ごとに次の四点を見る。

  1. 今も何に使うか
  2. 使わない間にどのような安全確認が要るか
  3. 止めた後、再開するには何が要るか
  4. 契約先、名義、連絡先、最終確認日を誰が記録するか

長く使っていない設備を、家族が自己判断で試運転しない。異臭、漏水、破損などがあれば近づかず、契約先や専門事業者へ相談する。

同じように、火災保険も「誰も住まないから不要」とは決められない。現在の使用状況が契約内容と合っているかを保険会社や代理店へ伝え、補償、保険料、必要な手続きを個別に確認する。

片付けは、本人の生活に必要な物から抜き出す

実家に残る家財の写真を見ながら持ち主と由来を話す高齢の母と息子

施設へ持っていかなかった物が、すべて不要になるわけではない。

入居後に必要と分かる衣類や日用品がある。施設の書類や医療の手続きに使う物もある。本人が手元へ置きたい写真、手紙、仏具なども、家族には判断できない。

片付けを始めるなら、処分ではなく仕分けからにする。

扱い
本人へ持っていく施設の持ち込み条件を確認して届ける
家で保管する保管場所、期限、確認する人を決める
本人へ尋ねる写真を見せるか、帰宅時に確認する
家族で確認する名義、契約、価値、他の家族の思いを確かめる
処分候補本人の同意と出し方を確認してから動かす

実家の母屋を片付ける順番と同じく、書類、貴重品、家電、危険物、判断の重い物を一つの山へ混ぜない。通帳、印鑑、保険、土地・建物の書類などは、一般の家財より先に保管場所を確かめる。ただし、暗証番号や登記識別情報を写真で共有することは避ける。

母屋には、父が大工として手を入れた部屋が残っている。道具の方は大工小屋にある。私や子どもが住む予定はない。それでも、父の物だから全部残すとも、使わないから全部捨てるとも決められない。母が話せるうちに、残したい物、任せる物、見たくない物を聞きたい。

母屋には、荷物もそのまま置かれている。いつか整理しなければと思いながら、母も私も手をつけないまま来た。難しいのは量だけではない。どこに何を置いたかという記憶の方が、先に薄れていくことだと思う。私も、どの部屋のどこに何が入っていたかを、もう正確には言えない。

品物の持ち主や由来が分かるのは、本人に確かめられる間だけである。それができなくなった後の母屋には、誰の物とも決められない品が残る。値打ちのある物という意味ではない。名前も、そこにある理由も分からないまま、捨てるか残すかだけを家族が選ぶことになる。

だから、先に聞いておきたいのは「捨ててよいか」ではなく、「これは誰の物か」「なぜここにあるか」の方だと思うようになった。持ち主と経緯さえ分かっていれば、処分の判断は後からでもできる。逆の順番は取り戻せない。

本人が施設にいるからこそ、本人抜きで話を進めないことが大切になる。

施設と実家の費用が重なる期間を先に置く

実家じまいには時間がかかる。その間は、施設と実家の支払いが重なる。

老人ホームの費用は月額だけではないで整理したように、施設側には月額費用のほか、医療、日用品、付き添い、入退去の費用がある。実家側には税、保険、光熱、見回り、草木、修繕が残る。

家計表では、施設費用を入れた残りで実家を管理するのではなく、最初から二つの欄を作る。

時期施設実家家族の作業
入居直後入居費、月額、用品契約と管理を継続本人の暮らしと家の安全を確認
暮らしを確かめる期間追加サービス、医療郵便、見回り、最低限の維持残す物と確認する物を分ける
方針を決める期間継続費用を見直す見積もり、名義、境界等を調べる本人と家族で選択肢を比べる
方針決定後面会、連絡、補充売却、賃貸、解体、保留に応じた費用契約と作業の記録を残す

重なる期間をゼロにしようとすると、処分や解約を急ぎやすい。何か月必要かを一律に決めることはできないが、候補施設の契約、本人の状態、家の傷み、季節、家族が動ける日数を並べ、見直す日を決めておく。

保留には期限を付ける。「落ち着いたら」ではなく、「施設での暮らしを本人と確認した後」「次の固定資産税通知が届く前」など、家族が集まれる時期へ置き直す。

期限が要るのは、家族の気持ちの整理のためだけではない。床の軋みや天井裏の気配のように、待っている間も家の状態は動く。だからといって、自分で屋根裏へ上がって確かめたり、生き物を追い出そうとしたりはしない。どこで音がするか、いつからか、臭いや汚れ、雨染みなど、室内や地上から分かることだけを控え、建物の傷みなら修繕業者、生き物なら自治体の窓口や専門の事業者へ、内容に合う相手を分けて相談する。保留の間に何を確認するかを決めておけば、待つ時間は放置とは違うものになる。

売る・貸す・壊す・保留は、名義と使い方を調べてから比べる

自治体の空き家相談窓口で実家の写真と間取りを確認する50代の男性

実家の出口は、売却だけではない。

売る、貸す、壊す、家族が使う、期限を決めて保留する。それぞれに費用と手間がある。田舎の家では、売りたい価格で買い手が見つかるとは限らない。土地に農地が含まれる、境界が分からない、名義が今の所有者と一致しないなど、建物以外の確認が必要になることもある。

実家を売る・貸す・壊す判断軸では、四つの状態を同じ表へ置いた。施設入居後も、まず確認する順番は変わらない。

  • 土地と建物の名義
  • 宅地、農地、山林などの区分
  • 境界と接道
  • 建物と設備の現在の状態
  • 税、保険、維持費
  • 片付け、修繕、解体の概算
  • 売却や賃貸の需要
  • 本人が戻る可能性と希望

施設へ入ったことを、本人が家を手放すことに同意した証拠にはしない。所有者が母なら、意思を確認できるうちに説明し、分からない点は司法書士、土地家屋調査士、不動産事業者、自治体の空き家窓口など、内容に合う相手へ相談する。

一社の査定額だけで方針を決めず、査定の前提、必要な片付けや修繕、手数料、売却までの期間を分けて聞く。貸す場合も、家賃だけでなく修繕、管理、空室期間、家財の扱いを確認する。

法律上の「空家等」かは、家族だけで決めない

親が施設へ入ったからといって、その日から実家が法律上の「空家等」になると家族が断定することはできない。建物の使用実態や状態を踏まえ、自治体が個別に判断する。

一方で、人が住まない家を管理せずに置いてよいわけではない。

国土交通省の空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報によると、2023年12月に改正法が施行され、放置すれば特定空家等になるおそれがある「管理不全空家等」も指導・勧告の対象になった。勧告を受けた管理不全空家等の敷地は、固定資産税の住宅用地特例が外れる場合がある。

国土交通省は、当面除却や活用ができない家にも適切な管理が必要として、空き家管理チェックリストを公開している。自分で点検や補修を続けるのが難しい場合は、管理業者や修繕業者の利用も選択肢になる。

制度を怖がって売却を急ぐのではなく、家の状態を確認し、管理できない部分を早めに相談する。自治体から連絡や文書が届いた場合は、放置せず、対象となった建物、求められている対応、期限、相談先を確認する。

戻せない作業ほど、後ろに置く

実家じまいの作業は、戻しやすさで並べると判断しやすい。

  1. 現状を写真と一覧で残す
  2. 管理者、鍵、連絡先、支払いを決める
  3. 本人の生活に必要な物を抜き出す
  4. 郵便、契約、保険、税を確認する
  5. 見積もりと選択肢を集める
  6. 本人と家族で残す物と家の方針を決める
  7. 解約、処分、売却、賃貸、解体などを実行する

前半は、間違えても直しやすい。後半へ進むほど元へ戻しにくい。

予定表には、作業日だけでなく「誰の確認があれば次へ進むか」を書く。本人、家族、施設、専門家、自治体のどこへ確認するかが分かれば、一人の勢いで処分が進むのを防げる。

母が施設へ入った後の実家を、私はまだ実際には扱っていない。だから、入居後何日で何をすべきだとは言えない。

母が施設へ移ることになれば、家へ戻らない可能性の方が高いのだろうとは思う。考えたくはないが、そう思っている。ただ、そう見込むことと、本人に代わって家の行き先を決めてしまうことは別である。急いで閉じないのは、本人が実際に戻るためだけではない。自分の家のことを本人が決められる時間を、こちらの都合で短くしないためでもある。

母屋から離れへ暮らしが移ったときも、家の役割は一日では消えなかった。使わない場所が増えても、掃除、法要、契約、庭、思い出は残った。その経験から、施設入居後も最初に必要なのは売却の決断ではなく、本人の戻り道を残した管理だと思っている。

実家じまいは、家を空にする速さを競う作業ではない。

本人の新しい暮らしを確かめ、残った家を安全に保ち、戻せない決定を本人と家族で選ぶ。その順番を守りたい。

定時のあとの時間を使って、まずは鍵、郵便、契約、見回り、母に聞いておきたい物の五つを、一枚に書き出しておこうと思う。

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