親のお金の管理を調べると、成年後見制度と家族信託がよく並んで出てくる。
私も最初は、どちらも家族が親の財産を管理する仕組みだと思っていた。
しかし、始める時期も、支えられる範囲も、関わる人も違う。
名前だけを比べても、我が家に必要なものは決められない。
そこで、「いつ」「何を」「誰に任せたいか」で整理した。
※本稿は2026年8月20日時点の現行制度に基づく。
2026年6月に公布された改正法のうち、成年後見制度に関する部分は同日時点で施行されていない。
比べる前に困りごとを四つに分けた
制度を調べる前に、親のお金で困りそうな場面を分ける。
我が家では、次の四つが一つの心配として混ざっていた。
| 困りごと | 確認すること |
|---|---|
| 日常の支払い | 年金、固定費、医療費をどう確認するか |
| 介護や施設の契約 | 本人が手続きしにくいとき、誰が支えるか |
| 実家などの財産 | 維持、修繕、売却を誰が判断するか |
| 亡くなった後 | 相続や口座手続きをどう引き継ぐか |
日常の支払いなら、家族の見守りや銀行への相談で足りる場合がある。
介護契約や財産処分まで必要なら、法的な権限の確認が要る。
亡くなった後の相続は、生前の財産管理とは別の手続きである。
この四つを分けないと、一つの制度で全部解決できるように見えてしまう。
制度は心配の名前ではなく、必要な支援の範囲から選ぶものだと分かった。
成年後見制度は本人を法律面と生活面から支える

現行の法定後見制度には、補助、保佐、後見の三つがある。
どの類型で支援するかは本人の判断能力の程度で決まり、支援する人は家庭裁判所が選任する。
成年後見人などは、本人の意思を尊重しながら、財産を管理する。
必要に応じて、介護サービスや施設入所などの契約も支える。
ただし、介護そのものや家事をする制度ではない。
家庭裁判所へ定期的に報告し、監督を受ける。
報酬が決まった場合は、本人の財産から支払われる。
家族を候補者として申し立てても、その人が必ず選ばれるとは限らない。
現行制度では、本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで続くのが原則である。
家族の都合だけで途中終了することはできない。
概要は、裁判所の成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要と家事事件Q&Aの成年後見の項目で確認した。
判断が難しくなった本人を、財産だけでなく法律行為も含めて支える制度である。
家族信託は契約で定めた財産を管理する
家族信託は、親が財産を託し、家族などが契約の目的に沿って管理する仕組みである。
親に契約内容を理解して決められる力がある間に、内容を設計する。
信託する財産と、管理する目的を契約で決めるのが特徴である。
例えば、親の生活費や介護費に充てるため、特定の金銭を管理する形がある。
実家を信託財産に含め、将来の管理方法を決める場合もある。
一方、信託に入れていない財産まで自動的に管理できるわけではない。
本人に代わって介護施設の契約をする権限も、家族信託だけでは当然に生まれない。
受託者には、契約に従って財産を分けて管理し、記録する責任がある。
契約内容、税金、家族関係によって注意点が変わる。
私は家族信託を契約した経験がなく、我が家に必要かもまだ決めていない。
仕組みの詳しい整理は、親の口座凍結に備える家族信託の記事へ分けている。
法務省も、認知症に備えた財産管理の選択肢として家族・親族による民事信託のパンフレットを案内している。
成年後見制度と家族信託を同じ項目で比べる

成年後見制度と家族信託を、判断に使う同じ項目で並べた。
ここでいう成年後見制度は、主に現行の法定後見を指す。
| 比べる点 | 成年後見制度(現行の法定後見) | 家族信託 |
|---|---|---|
| 始める時期 | 判断能力が不十分になってから申立てる | 契約内容を理解して決められる間 |
| 始め方 | 家庭裁判所へ申立てる | 本人と受託者が契約する |
| 支援する人 | 家庭裁判所が選任する | 本人が受託者を選ぶ |
| 主な範囲 | 財産管理と必要な法律行為、生活面の契約支援 | 契約で信託した財産の管理と処分 |
| 監督 | 家庭裁判所が監督する | 契約設計による。裁判所の定期監督は原則ない |
| 費用 | 申立費用や、選任された場合の報酬など | 契約、公正証書、登記、専門家への依頼など |
| 居住用不動産 | 現行法では処分に家庭裁判所の許可が必要 | 契約と権限の範囲で受託者が管理する |
| 終わり方 | 現行法では能力回復または死亡までが原則 | 契約で定めた終了事由による |
| 死亡後 | 後見事務は終了し、相続へ引き継ぐ | 契約で帰属先などを定めることがある |
どちらが優れているかではなく、役割が違う。
成年後見制度は、本人の権利を守るため、家庭裁判所の監督が入る。
家族信託は、本人が決めた目的に沿い、指定した財産を管理する。
必要な支援によっては、どちらか一方で足りない場合もある。
比較表だけで契約や申立てを決めず、個別の事情を専門家へ伝える前提で使う。
二つで決められないときの任意後見
成年後見制度には、法定後見のほかに任意後見がある。
任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに、任せる人と事務の内容を公正証書の契約で決めておく制度である。
決める時期は家族信託と同じで、支える範囲が生活や契約の全般に及ぶ点は法定後見に近い。
我が家の困りごとが実家という財産なら信託、暮らしと契約の全体なら任意後見が近いことになる。
ただし、契約を結んだだけでは動き出さない。
効力が生じるのは、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ後である。
その監督人には、任意後見人になる家族の近親者は選ばれず、弁護士や司法書士などの第三者が選ばれることが多い。
家族に任せる契約でも、第三者の監督が入る前提で考えておく。
| 制度 | 決める時期 | 主に支える範囲 |
|---|---|---|
| 家族信託 | 契約を理解して決められる間 | 信託した財産の管理と処分 |
| 任意後見 | 契約を理解して決められる間 | 契約で決めた生活や財産の事務 |
| 法定後見 | 判断能力が不十分になってから | 財産管理と必要な法律行為、生活面の契約支援 |
任意後見の手続きと監督人については、法務省の任意後見制度のQ&Aで確認した。
最初にかかる費用と期間の目安
制度を決める前に、入口でかかるお金と時間も並べておく。
法定後見の申立てには、申立手数料800円と登記手数料2,600円の収入印紙、連絡用の郵便切手が要る。
保佐や補助で代理権などを付ける申立てを加える場合は、その分の手数料が増える。
後見と保佐では、判断能力を医学的に確認する鑑定が必要なときに鑑定料がかかる。
法務省の説明では、鑑定料はほとんどの場合10万円以下とされている。
申立てから法定後見が開始するまでは、多くの場合4か月以内である。
開始後に成年後見人などから請求があれば、家庭裁判所の判断で報酬の支払いが決まる。
任意後見契約の公正証書は、基本手数料13,000円、登記嘱託手数料1,600円、登記所へ納める印紙代2,600円が目安になる。
家族信託には、こうした公的な定額がない。
契約の設計、公正証書、不動産の登記、専門家への依頼で変わるため、見積もりで確かめる。
戸籍や診断書などの書類を取る費用は、どの制度でも別にかかる。
費用と期間の内訳は、法務省の成年後見制度の利用に関するQ&Aで確認した。
家族に任せたいだけでは制度を選べない
私は一人っ子なので、母のことは自分が担うものだと考えがちである。
けれども、「家族に任せたい」という希望だけでは制度を決められない。
法定後見では、家庭裁判所が本人に適した人を選ぶ。
家族が選ばれることもあるが、専門職が選ばれることもある。
家族信託では本人が受託者を選べるが、選ばれた家族の責任は軽くない。
信託財産を自分のお金と分け、契約どおりに管理し、帳簿を残す必要がある。
家族の人数が少ないほど、管理する人を誰が確認するかも考える。
母の希望だけでなく、私が継続して事務を担えるかも確認が要る。
また、母のお金と私の家計を混ぜない仕組みも欠かせない。
家族への信頼を、記録しなくてよい理由にはしないほうが安全である。
制度名の前に、任せたい仕事と、担う人の負担を書き出す。
我が家の課題を一つずつ振り分ける

我が家で気になっていることを、すぐ一つの制度へ結びつけないようにした。
日常の支払いは、まず本人の同意と銀行の手続きを確認する。
その順番は、親のお金を家族が管理する前に確認したことにまとめた。
毎月と毎年のお金の流れは、親の暮らしにかかるお金を年間で見える化した話で整理している。
実家など特定の財産を将来どう管理するかは、家族信託の相談項目になる。
施設との契約や本人の権利を広く支える必要が出たら、成年後見の相談項目になる。
亡くなった後は、親の口座凍結と相続手続きの整理へ引き継ぐ。
| 我が家の課題 | 最初にすること |
|---|---|
| 日常の支払い | 本人と手伝う範囲を決め、銀行へ確認する |
| 年間の収支 | 支払月と家族の立替えを一覧にする |
| 実家の管理 | 本人の希望と将来の使い方を聞く |
| 契約の支援 | 必要な法律行為を相談窓口へ伝える |
| 死亡後の手続き | 相続の資料と連絡先を別に整理する |
この順番なら、母に今の暮らしを続けてもらいながら準備できる。
必要な制度がまだ決まらなくても、困りごとの整理は無駄にならない。
2026年の改正法は公布済みだが未施行
成年後見制度は、2026年に大きな見直しが決まった。
改正法(民法等の一部を改正する法律)は2026年6月17日に成立し、同月24日に公布された。
法務省によると、後見と保佐を廃止し、補助へ一元化する内容である。
必要な範囲と期間に応じた支援を選びやすくする方向が示されている。
ただし、成年後見制度に関する改正部分は、公布日には施行されていない。
施行日は、公布から2年6か月を超えない範囲で政令が定める。
そのため、2026年8月20日時点の申立てや運用は、現行制度で確認する。
改正後の利用を考える場合は、施行日と最新の裁判所案内を確かめ直す。
成立した法律と、現在使える制度を混ぜないことが大切である。
最新情報は、法務省の成年後見制度の見直しに関する民法等改正で確認できる。
この記事も、施行時には比較表の更新が必要になる。
相談先は制度名ではなく困りごとで選ぶ
まだ制度を決められないときは、最初から契約先を探す必要はない。
地域の中核機関、地域包括支援センター、社会福祉協議会などへ相談できる。
厚生労働省の成年後見制度の相談窓口案内から、地域の窓口を探せる。
相談時には、次の一枚を持っていく。
- 本人が自分でできること
- 家族が今手伝っていること
- 今後困りそうな契約や支払い
- 管理を考えている財産
- 本人が希望する人と暮らし方
- いつまでに決めたいか
法定後見の手続きは家庭裁判所へ確認する。
任意後見なら公証役場、家族信託なら信託実務に詳しい専門家も候補になる。
不動産、税金、相続が絡む場合は、それぞれの専門家の確認も要る。
我が家では、まず日常の支払いと実家の将来を別々に一枚へ書く。
制度名を選ぶのは、その一枚を相談窓口で見てもらった後である。
その一枚は、母が実家と暮らしをどうしたいかを聞くところから始まる。

