実家の火災保険は、住んでいるうちはあまり意識しない。
毎年、または数年ごとに更新の案内が来る。保険料を払い、証書をしまう。火事や台風に備えるものだということは分かっているが、契約の細かい中身まで見る機会は少ない。
私の実家では、母屋と離れにそれぞれ火災保険の契約があった。母は今、離れで一人暮らしをしている。母屋は空き家に近い状態だ。父がいたころ、家族が暮らしていたころとは、家の使い方が大きく変わっている。
それでも、保険だけは昔の前提のまま残りやすい。
きっかけは、先月、自宅マンションの火災保険が満期を迎えたことだ。自分の保険を見直す流れで、実家のことも考え始めた。
今回は、空き家になりかけた実家の火災保険をどう考えるかを整理しておきたい。保険をすすめる話ではなく、今の家の使い方に合っているかを確認するための話だ。
火災保険は、入っていれば安心とは限らない
以前の私は、火災保険に入っていれば安心だと思っていた。
建物に保険がかかっている。
保険料も払い続けている。
証書も残っている。
それなら、万一のときには何とかなるのだろう、と考えていた。
だが、母の保険を整理してから、その見方は少し変わった。保険は、ただ入っていればよいものではない。今の建物の使い方、住んでいる人、補償の範囲、保険金額、家財の有無が合っていなければ、安心の形にはなりにくい。
特に実家のように、暮らし方が変わった家では注意がいる。
母屋には、以前は家族が暮らしていた。
今は母が離れで暮らし、母屋は年に数回、法事や荷物の確認で使う程度になっている。
大工小屋には、父の道具や古い農機具が残っている。
庭木や草の管理も、以前のようにはできない。
こうなると、建物のリスクは変わる。
人が住んでいない家は、異変に気づくのが遅くなる。雨漏り、漏電、台風後の破損、空き巣、放火、近隣への損害。どれも、住んでいる家とは見え方が違う。
火災保険は、こうしたリスクに備えるためのものだ。ただし、契約時の前提と今の実態がずれていれば、思ったように補償されない可能性もある。
保険に入っているかどうかより、今の実家の状態を保険会社に伝えたうえで成り立っている契約かどうか。
まずそこを確認したい。
私自身の火災保険を、先に見直した

実家のことを考え始めたのは、自分の火災保険がきっかけだった。
先月、自宅マンションの火災保険が満期を迎えた。これまで長く同じ会社で続けてきたが、この機会に一度見直すことにした。
ネットの一括見積もりを取り、そのサイトのコンサルタントと電話で相談した。
正直に言えば、最初は身構えていた。見積もりや相談は、そのまま勧誘につながると思っていたからだ。
だが、電話に出た人は商売っ気がなかった。こちらの質問に、ざっくばらんに答えてくれた。
結局すすめられたのは、その一括見積もりには入っていない会社だった。
一瞬、それも誘導ではないかと疑った。だが、理由を聞くと納得できるものだった。補償の中身と保険料の釣り合いを、こちらの事情に合わせて説明してくれた。
こういう人に当たるのは、運がよかったのだと思う。相談の場では、ある程度は売り手の都合が入ると考えて臨む方が、こちらの軸を保ちやすい。私は、その場で契約を決めやすい個別の対面相談は、なるべく避けるようにしている。
この電話のついでに、実家の火災保険についても聞いてみた。
返ってきたのは、少し意外な答えだった。
古い建物は、新しく火災保険に入り直すのが難しいことがある。加入できても、建物の状態を証明する手続きに時間と手間がかかる。だから実家は、無理に乗り換えを探すより、今の会社での延長や、内容の変更で考えた方がいい。そう助言された。
言われてみれば、自宅マンションの見直しでも、耐震等級や正確な建築年月、専有面積を調べる必要があった。マンションは記録が残っていて、履歴をたどるのは比較的簡単だった。それでも、そろえるのは手間だと感じた。
実家の母屋は、それよりずっと古い。同じ情報を全部そろえるのは、相当な手間になるはずだ。
自分の一件を通して、実家の火災保険は、私が思っていたほど自由に選び直せるものではないと分かった。
住んでいる家か、空き家に近い家かで前提が変わる

火災保険を調べていて、最初に意識したのが建物の用途だ。
一般社団法人日本損害保険協会の損害保険Q&Aでは、火災保険の告知事項として、建物の構造や用法、所在地、他の火災保険契約などが挙げられている。また、通知事項として、建物の構造や用法の変更、家財の他の場所への移転などが説明されている。
つまり、建物をどう使っているかは、保険にとって重要な情報だ。
住居として使っているのか。
店舗や事務所として使っているのか。
家財があるのか。
誰も住んでいないのか。
こうした違いは、保険料や引き受けの判断に関わる。
実家の母屋は、完全な空き家と言い切るには少し迷う。年に数回は使う。中には家具や荷物もある。法事のときには人が入る。だが、日常的に誰かが寝起きしているわけではない。
この「空き家に近い」という状態が、いちばん曖昧だと思う。
家族の感覚では、まだ実家だ。
近所の人から見ても、母が同じ敷地内に住んでいる家だ。
しかし、保険の契約上、それがどう扱われるかは別の話だ。
住宅として扱われるのか。
空き家として扱われるのか。
一般物件のような扱いになるのか。
今の契約で補償されるのか。
これは、家族の思い込みで判断しない方がいい。
保険会社や代理店に、母屋は現在誰も住んでいないこと、離れに母が住んでいること、年に数回は母屋を使うこと、家財が残っていることを伝えたうえで確認する必要がある。
黙って保険料を払い続けることが、必ずしも安全とは限らない。
変更を伝えていなかったために、いざというとき問題になる。その方が怖い。
母屋と離れを一つの実家として見ない
私の実家には、母屋と離れがある。
母屋は、父母と私が暮らしていた家だ。広い浴室があり、二階に寝室があり、古い家らしい段差や寒さもある。今の母の一人暮らしには広すぎる。
離れは、平屋でコンパクトだ。ユニットバスで、お湯も使いやすい。段差も少なく、母が一人で暮らすには母屋より合っている。
同じ敷地にあるため、普段はまとめて実家と呼んでいる。だが、火災保険を考えるときは、母屋と離れを分けて見なければならない。
誰が住んでいるのか。
どの建物に家財があるのか。
どの建物を今後も使うのか。
どの建物は、いずれ解体や整理の対象になるのか。
どちらにどの保険がかかっているのか。
母屋と離れで契約が別なら、補償内容も保険金額も違う可能性がある。同じ保険会社でも、契約時期や建物の扱いが違えば、内容は変わる。
母屋に昔のまま厚い補償が残り、母が実際に住んでいる離れの補償が十分でない。
あるいは、母屋に家財補償が残っているが、今はほとんど使っていない。
逆に、空き家に近い母屋だからこそ、火災や風災、近隣への影響を考えて一定の備えが必要かもしれない。
このあたりは、契約書を見ただけではすぐ分からない。
だから、母屋と離れを一枚の表にしてみるとよいと思っている。
建物名。
今の使い方。
住んでいる人。
残っている家財。
火災保険の会社名。
証券番号。
補償内容。
保険料。
更新時期。
こうして並べると、「実家の火災保険」という大きな言葉が、具体的な契約に分かれる。
保険を残すか減らすかを考える前に、まず建物ごとに見る。これが、空き家になりかけた実家では大事だと思う。
火災だけでなく、風災・水災・盗難・賠償も見る

火災保険という名前を見ると、火事だけを考えがちだ。
だが、実際の火災保険には、風災、水災、雪災、落雷、盗難、破損、個人賠償など、契約によってさまざまな補償が付いていることがある。
もちろん、すべてを厚くすれば安心という話ではない。
大事なのは、実家の状況に合っているかだ。
私の実家では、台風や大雨のあとが気になる。母屋は古く、外壁や建具にも年数が出ている。雨漏りのような致命的な症状はまだないが、いつまでも今のままとは限らない。
庭木や垣根もある。強風で枝が折れたり、道や隣地に影響したりする可能性もある。
人が住んでいない母屋では、壊れたことに気づくのが遅れるかもしれない。
こう考えると、火災だけを見ていては足りない。
風災はどうなっているか。
水災は必要な地域なのか。
家財補償は今も必要か。
盗難や破損は対象になるのか。
近隣へ損害を与えたときの賠償はどうなるのか。
地震による火災や損壊は、火災保険だけでは補償されない。日本損害保険協会の説明でも、地震、噴火、津波による損害は火災保険では補償されず、地震保険の対象として整理されている。
こうした基本を知っておくだけでも、担当者との話は変わる。
「保険料を安くしたい」だけでは、必要な補償まで削ってしまうかもしれない。
「不安だから全部残したい」だけでは、使っていない家財や過剰な補償に払い続けることになるかもしれない。
今の実家にとって、本当に困るリスクは何か。
起きたら家族だけでは負担できないものは何か。
逆に、今の使い方では優先度が下がったものは何か。
火災保険の見直しは、この線引きの作業だと思う。
保険料と管理費を同じ表に並べる

空き家に近い実家では、火災保険だけを見ても判断しにくい。
固定資産税がある。
草刈りや庭木の剪定がある。
修繕費がある。
交通費や訪問の時間がある。
防犯や換気、台風後の確認もある。
そこに火災保険料が加わる。
一つひとつは、何とか払えるように見える。だが、合計すると、空き家を維持する費用は小さくない。
以前、空き家の固定資産税を調べたとき、税金だけで判断しない方がいいと感じた。古い家を残せば住宅用地の特例が続くかもしれない。しかし、管理費や修繕費、保険料まで含めると、本当に安いかどうかは分からない。
火災保険も同じだ。
保険料だけを下げることが目的ではない。
空き家に近い家を、どこまで維持するのか。
いつまで維持するのか。
誰が見に行くのか。
壊す可能性があるなら、いつごろ判断するのか。
こうしたことと一緒に見なければならない。
私は、母屋の火災保険を考えるとき、保険だけで結論を出したくない。
固定資産税。
火災保険料。
最低限の修繕費。
草刈りや剪定の費用。
自分が通う負担。
解体するとした場合の見積もり。
これらを同じ紙に並べる。
そうすると、「保険を残すかやめるか」ではなく、「母屋をどう扱うか」という本来の問題に戻れる。
火災保険は、実家を守るための手段の一つだ。
実家の今後を考えないまま、保険だけを昔のまま続けるのは避けたい。
担当者に聞く前に、こちらの前提を決める
火災保険を見直すなら、最終的には保険会社や代理店に確認する必要がある。
ただ、何も準備せずに相談すると、話が相手のペースで進みやすい。
こちらが知りたいことを決めておく方がいい。
たとえば、私なら次のことを確認したい。
- 母屋が今の使い方で補償対象になるのか
- 離れに母が住んでいることは契約上どう扱われているのか
- 母屋と離れの契約内容に過不足はないか
- 家財補償は今の家財量に合っているか
- 風災、水災、盗難、賠償の補償はどうなっているか
- 地震保険は付いているか、必要性をどう考えるか
- 母屋のように古い建物は、新規加入と今の契約の継続・変更のどちらが現実的か
- 解体や売却をした場合、いつ連絡が必要か
- 契約者や被保険者、住所に変更が必要ないか
相談の目的を「安くしたい」だけにしない。
今の実家の使い方に合っているかを確認したい。
空き家に近い状態を伝えたうえで、補償される契約にしておきたい。
母の生活費を圧迫しない範囲にしたい。
近隣に迷惑をかけるリスクは外したくない。
こうした前提を持って聞く。
担当者や保険会社を疑うためではない。こちらの生活実態を一番知っているのは、家族の側だからだ。
母屋の使い方が変わったこと。
母が離れに住んでいること。
将来、解体や整理を考えていること。
こうした事情を伝えなければ、相手も正確な提案をしにくい。
親の保険を整理したときにも感じたが、保険は黙っているとそのまま続く。自動的に今の暮らしへ合わせてくれるわけではない。
だから、家族の側から現状を出す。
そのうえで、残すもの、減らすもの、確認するものに分けていく。
空き家に近づいたら、保険も実家の今後と一緒に考える
空き家になりかけた実家の火災保険は、簡単に答えが出るものではない。
住んでいないなら不要だ、と言い切ることはできない。
古い家だから全部手厚く残すべきだ、とも言い切れない。
母屋には思い出がある。父が手を入れた家でもある。法事や仏壇のこともあり、今すぐ空っぽにできるわけではない。
一方で、母は離れで暮らしている。母屋は日常の住まいではなくなった。庭や建物の管理は、私の体力にも関わってくる。次の世代へそのまま渡すつもりはない。
そう考えると、火災保険は単独の問題ではない。
母屋をいつまで維持するのか。
離れを母の暮らしの場としてどう守るのか。
大工小屋や家財をどう整理するのか。
固定資産税や管理費をどう見るのか。
近隣へ迷惑をかけないために何を残すのか。
これらと一緒に考える必要がある。
まずやることは、証書を集めることだ。
契約者、被保険者、建物、補償内容、保険料、更新時期を見る。
次に、母屋と離れの今の使い方を書き出す。
そのうえで、保険会社や代理店に現状を伝えて確認する。
保険は安心のためにある。
だが、実態とずれた安心は、いざというときに役に立たないかもしれない。空き家に近づいた実家ほど、保険を昔のままにしない方がいい。
今のところ、私の結論は、すぐに削ることではない。
まず、母屋と離れを分けて、今の使い方に合っているかを確かめることだ。
そして母屋のように古い家は、新しく入り直すより、今の契約を延長するか、内容を今の使い方に合わせて変える方が現実的だと考えている。
派手な整理ではないが、実家の今後を考えるうえで避けて通れない確認だと思う。定時のあとの時間を使って、少しずつ進めていく。


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