親のお金のことを調べているうちに、自分の側が止まっていることに気づいた。
母の保険や口座を確認しようとして、では自分はどうかと考えた。毎月いくら出ていくのか。何の契約が続いているのか。使っていない口座がいくつあるのか。すぐには答えられなかった。
母はお金の話をしたがらない。長くそう思っていたが、話したがらないというより、確かめる機会のないまま年を重ねたのだと思うようになった。そして、それは自分にも当てはまる。
50代後半になって、ようやくお金のことを考えるようになった。今から大きく増やすことはできない。だとすれば、今ある資金をどう持たせるかが、これからの中心になる。
今回は、親のお金の聞き方ではなく、お金と縁遠く暮らしてきた自分たち親子が、この先どう組み立て直すかを考えた。
母の世代には、お金を学ぶ機会が少なかった
母は、お金の話になると「大丈夫」とだけ返してくる。
以前は、隠しているのだろうかと思った時期もある。だが、母の暮らし方を振り返ると、そうではないと感じる。
母の家では、お金は現金と通帳で完結していた。父は大工で、会社の給与明細も退職金の規定もない。年金や保険の仕組みを、家庭の中で説明してくれる人はいなかった。
保険も、内容を比べて選んだというより、訪ねてきた人にすすめられて契約したものが多い。証書は残っているが、どれが今も有効なのか、母自身にも整理はついていなかった。
これは、母が怠ってきたということではない。学ぶ機会や、比べる材料が身近になかったのだと思う。金融の情報が家庭に届くようになったのは、ずっとあとの話だ。
同じような家庭は、少なくないのではないかと思う。親の世代の選び方を今から評価しても、暮らしは変わらない。それより、今わかっていないことを一つずつ確かめていきたい。
母のお金について、私が今できるのは、金額を問いただすことではない。何の契約が続いていて、どこから引き落とされているのかを、母と一緒に確かめることだ。
私自身も、お金と近い暮らしをしてこなかった

母のことを書きながら、自分も似た場所にいたと気づいた。
会社員として働いてきた間、税金も社会保険も、会社が計算して給与から引かれていた。年末調整も会社がまとめてくれる。手取りの額は見ていたが、その手前で何がどう引かれているのかを、自分で確かめたことはほとんどなかった。
保険も、付き合いや流れで入ったものがある。口座とカードは、転職で給与の振込先が変わったときや、何かの支払いで必要になるたびに増えていった。使っていない口座がいくつ残っているか、今も正確には言えない。
投資を始めたのも遅かった。制度としてのNISAやiDeCoを知ったのは、40代の後半、50に手が届くころだった。気持ち程度の額を置いているが、それで老後をまかなえるとは考えていない。
知識がないこと自体が問題なのではない。自分のお金の流れを、一枚で説明できない状態のまま来たことが問題だと思う。
母に「わからないままにしないでほしい」と言うなら、まず自分がわかっている状態を作る必要がある。親のためだけの点検にしないほうが、話も進めやすい。
増やす前提で組み立てるには、時間が足りない
お金のことを考え始めると、どうすれば増やせるかという話に向かいやすい。
だが、私の場合、増やす力を計画の中心に置くのは難しい。運用が力を持つのは、時間をかけられる場合だと思う。20代や30代で始めた人と同じ前提で、これからの十数年を考えるわけにはいかない。
短い期間で間に合わせようとすれば、その分だけ大きく賭けることになる。うまくいかなかったときに、働いて埋め合わせられる年齢でもない。焦って動いた結果、資金そのものを傷めては本末転倒になる。
それなら、先に手をつけるのは、毎月確実に出ていく側だと考えるようになった。
支出は、増やす計画と違って自分で動かせる。しかも、一度見直せば効果が毎月続く。派手ではないが、確実に手元に残る方法として、今の自分にはこちらのほうが現実的だと思う。
不足額そのものの考え方は、老後2000万円問題を自分ごとにしてみたで、年金の見込み額と支出を分けて整理した。受け取る前の退職金をどう分けるかは、退職金の使い道と税金で考えている。今回はその手前にある、今の暮らしから出ていくお金の話になる。
今の暮らしから省けるものを、一つずつ見る

無駄を省くといっても、生活を切り詰める話ではない。
まず見たいのは、意識しないまま毎月出ていくお金だ。契約したことを忘れていても、引き落としは続く。金額が小さいほど、気づかないまま何年も過ぎる。
私が確認しようとしているのは、次のような項目になる。
- 毎月自動で引き落とされているもの(通帳と明細を1年分たどる)
- 保障が重なっている保険がないか
- 使っていない会費、有料サービス、契約したままのオプション
- 通信費と、電気・ガスの契約内容
- 使っていない口座とカードの数
- 実家側で、今は使っていない回線や機器の契約
一度に全部はできない。私は、月に一項目だけ確認することにした。今月は引き落とし、来月は通信、その次は口座、という進め方にする。
解約を急がないことも決めた。条件によっては違約金がかかる。保険のように、いったんやめると同じ条件では戻れないものもある。調べることと、決めることは分けたい。
自分の分と母の分では、進め方も変わる。自分の契約は、確認して納得すれば自分で決められる。母の契約はそうはいかない。名義は母で、判断するのも母だ。家族の側から見て無駄に思えても、本人の同意なく解約できるものではない。
だから母の分は、削る前提で見ない。何が続いているのかを一緒に確かめ、母が判断できる材料をそろえるところまでにする。使っていないと母自身が納得したものだけ、そのときに考えればよい。
数字を眺めるだけでは進まないので、確認した項目と結果は紙に残すことにした。一枚にまとめておけば、次に見直す時期も判断できる。母の分も、同じ紙に並べておきたい。
省いてはいけない支出を、先に決めておく

支出を減らそうとすると、削ってはいけないところまで手が伸びやすい。
先に線を引いておきたい。私の場合、母の暮らしを支える費用は、削る対象にしない。配食や買い物の支援は、母が一人で暮らし続けるための土台になっている。ここを減らせば、体調や生活の乱れという形で、あとから大きな費用に変わる可能性がある。
自分の健康も同じだ。検査や通院を先延ばしにして節約しても、得にはならない。健康診断の結果が年々気になる年齢になり、そこは削らないと決めた。
家と実家の火災保険、緊急時にすぐ使える現金も残しておきたい。まとまったお金を動かしにくい形にしすぎると、急な入院や修理のときに困る。
そのうえで、重なっている保障や、今の暮らしに合わなくなった契約は見直す余地がある。親の保険を整理してわかったことでも、解約から入るのではなく、今も有効な契約と、家族が請求できる動線を先に確認した。
減らすものと、守るものを同じ勢いで扱わない。この順番だけは、先に決めておきたいと思う。
取り返そうとしないことも、資金を守ることになる
お金のことを考え始めると、遅れを取り戻したい気持ちが出てくる。
そこが、いちばん危ないところだと思っている。準備が足りないと感じている人ほど、短期間で挽回できるという話に引き寄せられやすい。年齢を重ねてからの損失は、時間で埋め合わせることが難しい。
金融庁は、SNSや知人を装った勧誘による詐欺的な投資の相談が多く寄せられているとして、専用の相談ダイヤルを設けている。判断に迷う勧誘を受けたときは、金融庁の金融サービス利用者相談室に確認できる。契約や解約でのトラブルは、全国の消費生活センターが相談先になる。
母のような一人暮らしの高齢者は、勧誘を受けても家族に相談しないことがある。断りきれずに契約してしまう前に、迷ったら誰に聞けばよいかを決めておきたい。
学び直す場も、探せば公的な入口がある。金融経済教育推進機構(J-FLEC)は、一般向けに金融を学べる教材や講座を公開している。今から専門家になる必要はないが、用語がわかるだけで、勧誘を断る判断はしやすくなる。
お金と縁遠く暮らしてきた時間は、もう戻らない。それでも、これ以上減らさないための手は残っている。
今月やることは一つでいい。私は、通帳の引き落としを一年分たどるところから始める。母の分は、金額ではなく、何がどこから引かれているかを一緒に確かめる。
大きく増やす方法は見つからないが、出ていく分を知ることはできる。派手なことではないが、定時のあとの時間を使って、少しずつお金の整理を進めていく。

