実家の母屋を片付けるなら、家の中をどの順番で進めればよいのだろうか。
私の実家では、母は離れで一人暮らしをしている。母屋はほとんど使っていない。家具、布団、使わなくなった家電、古い書類、座敷の仏壇がそのまま残っている。
実家の片付けについては、以前何から手をつけるかを整理した。あのときは、母が暮らす離れ、重要書類、母屋、大工小屋、外回りという建物ごとの優先順位を決めた。決めていなかったのは、母屋の中に入ってからの順番だ。
今回は、捨てる順番ではなく、三段の準備として考えてみる。作業できる状態を作る。運び出せる状態を作る。迷わずに分けられる状態を作る。この順で見ると、母屋の中で何を先にやるかが決まってくる。
まず、母屋が「作業できる状態」かを確かめる
誰も住んでいない家は、物を動かす前に確認することがある。
私の実家の母屋は、電気と水道の契約を続けている。年に数回、お経のためにお坊さんに来ていただくので、照明とトイレと掃除の水が必要だからだ。一方、ガスは長く使わない間にコンロがつかなくなり、その後解約した。つまり、湯は出ない。
この状態を先に把握しておくと、作業の組み方が変わる。手を洗う水はあるが、湯を使う掃除はできない。照明はつくが、切れたままの部屋があるかもしれない。
母屋は二階建てで、エアコンは居間と寝室にしかない。座敷には冷房がない。夏の日中に二階や座敷で作業すれば、熱がこもる。
母屋に入る前に、次のことを確かめておきたい。
- 電気が使える部屋と、照明が切れている部屋
- 水が出る場所と、湯が出るかどうか
- 換気に使える窓と雨戸
- 冷暖房のない部屋と、そこで作業できる時間帯
- 鍵の場所と、作業中に開けておく出入口
長く閉めきった家は、埃とカビの匂いがこもる。私は母屋へ入るとき、先に窓を開けて風を通す。押し入れや納戸を開ける日は、防塵用のマスクと軍手を用意しておきたい。踏み台や脚立を使う作業は、一人で行く日にはしないと決めている。
持ち物も、あるとないで進み方が変わる。実家にあると思っていた物が見つからず、探すだけで時間が過ぎることがある。
- 防塵用のマスクと軍手
- 空の段ボールと、丈夫なごみ袋
- 印を書くための養生テープと油性ペン
- 照明が切れている部屋のための懐中電灯
- 写真と記録に使うスマートフォン
- 判断を保留する物を入れる箱
印を書く道具は、あとで役に立つ。物を動かした日に、残す、確認する、処分を検討するのどれかを箱や家具へ貼っておけば、次に来たときに同じ判断をやり直さずに済む。
母屋へ入る日は、母にも伝えておく。離れから見て、母屋に人がいる理由が分かる方が安心できる。何を触るつもりかを先に言っておけば、後から知って驚くことも減る。
作業できる状態を作ることは、片付けの前段ではなく、片付けの一部だと思っている。
目的は「空にする」ではなく、小さく四つに置く
「母屋を片付ける」と言っても、目的によって順番は変わる。
家を売るためなのか。将来の解体に備えるためなのか。母が使う部屋を作るためなのか。通路を安全にするためなのか。
目的を決めないまま始めると、残すか捨てるかの判断ばかりが増える。家具を一つ動かしても、次の置き場所が決まらない。
私の実家では、母屋をすぐに売る、貸す、壊すと決めているわけではない。仏壇や年中行事との関係もあり、単純な空き家として扱うことはできない。
そこで、最初の目的を小さく置くことにした。
- 出入りする通路を安全にする
- 必要な書類や貴重品を探せるようにする
- 雨漏りや傷みを確認できる状態にする
- 母が残したい物を家族で確認する
この段階では、家を空にすることを目標にしない。目的が小さければ、一日で終える範囲も決めやすくなる。
部屋の中より先に、運び出す順路を決める

母屋の片付けで最初に減らしたくなるのは、部屋の中の物だ。
しかし、先に出入口と通路を確保した方がよい。人が安全に歩けなければ、物を運べない。大きな家具を動かすにも、外へ出すにも、通路が要る。
玄関から廊下、廊下から各部屋までの幅を確保する。足元に置かれた箱や古い道具を端へ寄せる。積み重ねた物が倒れそうなら、無理に触らず、家族や業者に相談する。
母屋は寝室が二階にある。二階の物を下ろすなら、階段の幅と踊り場で、通る物の大きさが決まる。タンスや布団は、部屋を出る前に運び方を考える必要がある。
家の外も見ておきたい。車を寄せられる場所。雨のかからない仮置き場。母の出入りをふさがない通り道。仮置き場が決まっていないと、物が家の中と外を往復する。
ここで大切なのは、通路へ寄せただけで片付いたと思わないことだ。別の場所へ移しただけなら、次の作業でもう一度動かすことになる。寄せた物にも、その場で印を貼っておきたい。
出し方の違う物を、先に分けておく

片付けを始めてから困るのは、物の量ではなく、これはどう出すのか分からない物が出てくることだ。搬出の日に、そこで手が止まる。
まず家電がある。家電リサイクル法の対象は、家庭用エアコン、テレビ、電気冷蔵庫・電気冷凍庫、電気洗濯機・衣類乾燥機だ。廃棄する際は、消費者が収集運搬料金とリサイクル料金を負担し、小売業者による引取りが義務づけられている。この仕組みは環境省の家電リサイクル法の概要で確認できる。
母屋には、使わなくなった家電が残っている。粗大ごみと同じ日にまとめて出せると考えていると、その日の作業が止まる。品目と設置場所を先に控えておきたい。
次に、処理の方法が他と違う物がある。灯油、塗料、農薬、古いスプレー缶、乾電池やリチウムイオン電池、消火器、ガスボンベなどだ。ごみの分け方と出し方は自治体ごとに違う。環境省も、分別は地域によって異なるため自治体のルールに従うよう案内し、リチウムイオン電池やスプレー缶を他のごみへ混ぜないよう呼びかけている。詳しくはごみの分別と出し方の案内で確認できる。
我が家では、石油ファンヒーターは暖房を電気式へ替えたあとに処分した。一方、大工小屋には古い農機具が残っている。扉が朽ちて開けにくく、燃料が残っているかどうかも確かめられていない。ここは母屋の作業とは分けて考えている。
分けるのは、捨てるためではなく、出し方を確かめるためだ。母屋の作業を止めないために、次の三つに仕分けておく。
- 自治体の粗大ごみや通常のごみで出せそうな物
- 家電4品目のように、別の手続きが必要な物
- 出し方が分からず、確認してから決める物
ここまで分かれば、業者へ相談する内容も具体的になる。不用品回収業者に頼む前に家族で決めることで整理したように、依頼の前に対象範囲と残す物を家族で決めておきたい。
書類と貴重品は、家具を動かす前に抜き出す
通路と出し方が見えたら、家具を動かす前に重要な物を抜き出す。
母屋には、固定資産税の通知、保険の証書、通帳、印鑑、土地や建物に関する書類が残っている可能性がある。母が離れへ移った後も、古い書類は母屋側に置かれたままになりやすい。棚や机ごと処分してから探し直すことになれば、もう一度家を見直すことになる。
書類のある場所は、家族にしか分からない。母が普段使っていた場所、古い机の引き出し、仏壇の近く、押し入れの箱。母が元気なうちなら、何が重要かを本人に確認できる。実家の書類を探すとき、最初に見る場所で整理したように、まず親が使っていた場所から見た方が早い。
見つけた書類は、土地と建物、お金と口座、保険と医療、税金と公共料金、判断がつかないものに分けて保管する。判断がつかない物を処分箱へ入れないことが大事だ。迷いを無理に消すと、後で確認し直す手間が増える。
判断が重い物は、順番の最後に回す

書類を確保したら、判断の軽い場所から手をつける。
壊れた日用品、期限の切れた案内、同じ物がいくつもある消耗品。こうした物は、思い出のある家具より判断しやすい。記憶の強い部屋から入ると、作業が止まりやすい。基準を家族で共有してから、難しい場所へ進む方がよい。
ペースは、部屋単位ではなく時間単位で決めてもよい。今日は一時間だけ、棚一段だけ、段ボール一箱だけと区切る。実家へ行く日は買い物や庭の手入れもある。片付けだけで一日を使えるとは限らない。
家具と家電は、場所を取るうえに判断も重い。長く使った家具は、価格よりも親しみで残したくなる。だから、片付けの最初に一気に処分しない。残す基準は、一つに決めなくてよい。
- 今も使う物
- 家族が引き取りたい物
- 母が残したい物
- 建物の維持や行事に必要な物
- 手放すかどうか、まだ確認が必要な物
座敷の仏壇は、この基準の中に並べていない。母にとって何なのかを聞いてから考えたい。写真や手紙も、一度に全部を見ない方がよいと思っている。箱を一つ開け、写真を撮り、残す人を確認する。
迷う物は、保管場所と確認の期限を決めて残す。すぐに答えが出ない物を残すことも、順番を守るための判断になる。
片付けの終わりではなく、次に来る人が分かる状態にする
物が減ってくると、業者へ頼んで一気に空にしたくなる。
しかし、物を減らすことと、母屋をどうするかは別の問題だ。家を売るのか、貸すのか、壊すのか。使わない期間の管理をどうするのか。建物の状態をどこまで確認するのか。
母屋の傷みは、外壁や建具に年月として出ている。物をどかして初めて見える壁や床もある。作業の前後で写真を残しておけば、傷みの記録として後から比べられる。
片付けが一段落したら、次のことを確認したい。
- 建物の傷みが見える状態になったか
- 母が残したい物を確認できたか
- 必要な書類や貴重品を確保したか
- 残した物の置き場所が決まっているか
- 出し方の違う物の処分先を確認したか
- 今後、誰が母屋を見に行くか決めたか
家の中が空いても、次の管理が曖昧なら、判断は前に進まない。片付けは、建物を使いやすくする作業であると同時に、今後の判断材料を増やす作業でもある。
母屋全体ではなく、今日の一段を終わらせる
私の中では、母屋を片付ける順番はこうなっている。作業できる状態を確かめ、目的を小さく置き、運び出す順路を決める。そのうえで、出し方の違う物を分け、書類と貴重品を抜き出し、判断の軽い場所から進め、判断の重い物を家族で確認する。
この順番にしても、短期間で終わるわけではない。それでも、今日どこを触っているのかが分かる。
母屋には、母の今の暮らしだけでなく、父の仕事や家族の時間も残っている。子どもの側から見れば不要な物でも、母にとって意味のある物がある。だから、急ぐときほど順番を丁寧に決めたい。
派手な作業ではないが、通路が通り、書類の場所が分かり、出し方の違う物が分かれていれば、母屋の見え方は変わる。定時のあとの時間を使って、少しずつ母屋の片付けを進めていく。

