親の家に、手すりはまだ要らないのか|子どものために段差をなくした離れが、母を支えている

親の家に、手すりはまだ要らないのか|子どものために段差をなくした離れが、母を支えている 親と実家

最近、母の歩く速さが遅くなった。

並んで歩くと、気づかないうちに私が先へ出てしまう。振り返って、母が追いつくのを待つことが増えた。急に悪くなったのではなく、少しずつ遅くなっている。

それから、母の家を見る目が変わった。母が毎日歩く床、手をつく壁、上り下りする段差。転ばない家になっているのか、と考えるようになった。

母が暮らす実家の離れには、手すりが一本もない。今のところ母は転んだこともなく、困っている様子もない。それでも、そろそろ必要かもしれないと考え始めている。この記事では、手すりのない家で母が困らずに暮らせている理由と、目の見えない義父の家で手すりを付けたあとに見えたこと、手すりを付けるときの方法を整理しておく。

母の歩く速さが、少し遅くなった

母の歩き方が変わったと感じるのは、一緒に歩いているときである。

以前なら同じ速さで並んで歩けていたのに、今は私が歩幅を合わせている。急がせるつもりはない。母のほうも、無理に私に合わせようとはしない。そのぶん、遅くなったことがはっきり分かる。

歩くのが遅くなると、次に気になるのは転ぶことである。高齢になってからの転倒は、けがそのものより、その後の暮らしが変わることのほうが怖い。一人で暮らしている母なら、なおさらだ。

今のところ、母が転んだことはない。歩くのが遅いことのほかに、暮らしの中で特別に不自由なこともない。家の中では、慣れた家を慣れた動きで歩いている。考えてみると、それは母の足腰だけでなく、家の作りに助けられているところが大きいと思った。

子どものために、父が段差をなくした離れ

部屋の境目に段差がなく、平らにつながった床

母が暮らす離れは、私の子どもがまだ幼かったころに、父が建てた家である。

建てるとき、父は家の中をバリアフリーにした。小さな子どもがつまずかないように、ということだった。部屋と部屋の間に段差がなく、床は平らにそろっている。家の作りについては、実家の母屋をどうするか、まだ答えが出ないにも書いた。

離れは平屋で、階段がない。屋根裏部屋はあるが、物置程度のもので、今は使っていない。母の暮らしは、すべて一つの階の中で済んでいる。

父が段差をなくしたのは、幼い子どものためだった。それから長い年月がたち、今その家で暮らしているのは母である。結果として、母が住むのにもちょうどよい家になった。

幼い子どもに気を配った作りは、年を取った人にも優しい作りだった。つまずきやすい、急に止まれない、足が上がりにくい。気をつけることが、小さな子どもと高齢の親とでよく似ているのだと思う。父がそこまで考えていたとは思わないが、あの工夫が今の母の暮らしを支えていることは確かである。

手すりはないが、壁に手をついて歩ける

玄関の低い上がり框に置いた室内履き

離れに手すりはない。

それでも母は、家の中を困らずに歩けている。必要なときは、壁に手をついて歩くことができる。部屋がコンパクトで、どこにいても手の届く範囲に壁がある。

もう一つ、家の中に邪魔になる物が少ない。床に物を置いたままにしないので、通り道がふさがれていない。手すりがなくても、壁と通り道があれば、今の母には足りている。

それに、離れは手すりを後から付けられる作りになっている。今のところ、必要はない。ただ、歩くのが遅くなった母を見ていると、そろそろかもしれないとも考えている。

家の中で、唯一の段差は玄関である。上がり框に段差があり、靴を脱いで上がるときに一段上る。ただ、今のところ生活に支障が出る高さではない。母も、そこで困っている様子はない。

とはいえ、家の中で最初に手すりが要る場所があるとすれば、ここだと思っている。毎日の外出と帰宅で、必ず上り下りする場所だからだ。歩くのが遅くなった今、玄関で母がどう上がっているかは、行くたびに気にかけて見ている。

足元灯も滑り止めも、まだない

手すりのほかにも、母の家にないものがある。足元灯と、滑り止めである。

離れには足元灯がない。夜、寝室から廊下やトイレへ立つとき、母は暗く感じているかもしれない。今のところ、母からそういう訴えはない。ただ、母は困りごとを自分から口にするほうではない。言わないだけかもしれない、と思っている。

滑り止めも付けていない。床が平らなぶん、足元で引っかかることは少ない。そのかわり、濡れた床や靴下で歩くときに滑らないかは、段差とは別に見ておく必要がある。

家の外は、離れの中ほど平らではない。実家の庭は砂利を敷いていて、砂利のない部分には草が生い茂ってしまった。母屋までは10mほどあるが、最近は母が母屋へ行く用事もない。母の暮らしは、ほぼ離れの中に収まっている。

親の住まいを小さくする判断軸では、毎日使う範囲を見直すことを書いた。母の場合、その範囲の中で足りないのは、手すりより先に、夜の明るさと足元の滑りにくさなのかもしれない。足元灯や滑り止めのマットは、手すりと違って工事も申請も要らない。人の動きで点くセンサー式の足元灯なら、置くか差し込むだけで使える。

目の見えない義父の家には、手すりを付けた

廊下の壁に付けた手すりと、扉の下のスロープ状の板

手すりを付けたあとの暮らしは、妻の父の家で見ている。

義父は目がほとんど見えない。まだ視力が残っているうちに、公費の補助も受けて、家に手すりとバリアフリーの部品を付けた。手すりは、廊下と階段とトイレに付けてもらった。床には、扉の部分にわずかな段差があった。わずかでも、目が見えにくくなればつまずくかもしれない。そこで、段差にスロープ状の板を付けてもらった。

滑り止めも、必要な箇所に貼ってある。目の見えない義父にとって、滑ることは大きな危険になる。一方で、足元灯は義父には関係がない。同じ転ばないための備えでも、何が要るかは、その人の体によって違う。

今の義父は、目が見えなくなっても、慣れた家の中なら手すりを使わずに動けるようだ。それでも最近は、用心のためか、手すりもうまく使っているらしい。見えるうちに付けて、見えるうちに場所を覚えた手すりだから、今になって頼れるのだと思う。

義父の家には、手で分かる工夫がほかにもある。各部屋の電気のスイッチは、手の感触で入りと切りが分かる。ボタンがいくつも並ぶインターフォンには、立体のシールを貼って区別できるようにしている。同じシールは、電子レンジにも、エアコンのリモコンにも貼ってある。携帯電話のボタンにも同じような目印を付けていることは前に書いた。

母と義父では、体の事情がまったく違う。母の家に要るのは、義父の家にはない足元灯かもしれない。それでも、義父の家から分かることがある。手すりも目印も、本人がまだできるうちに付けておくと、できなくなったときに慣れたものとして使える、ということだ。

手すりが要るとき、付け方は二つある

母の家に手すりを付けるとしたら、どんな方法があるのかを調べておいた。

大きく分けると、壁や柱にねじで取り付ける方法と、床に置くだけの手すりを借りる方法がある。介護保険を使う場合、前者は住宅改修、後者は福祉用具の貸与として扱われる。

付け方向いている場所費用の考え方先に確かめること
置くタイプを借りる玄関の上がり框、ベッドの横など介護保険の貸与で、原則1割負担(所得により2〜3割)ほかのサービスと合わせて、月の利用限度額の中に収まるか
壁に取り付ける廊下、トイレ、浴室、玄関住宅改修の対象。上限20万円まで、原則1割負担工事を始める前に申請が要る。理由書を書いてもらう人がいるか

置くタイプの手すりは、工事が要らない。要支援の人でも借りられる品目に入っている。合わなければ返せるので、試しやすい。ただ、毎月の利用料は、ヘルパーなどほかのサービスと同じ限度額の中で数える。対象の品目と負担の考え方は、厚生労働省の介護サービス情報公表システムの福祉用具貸与の説明にまとまっている。

壁に付ける手すりは、介護保険の住宅改修として、20万円までの工事が支給の対象になる。手すりの取付けや段差の解消が代表的な工事である。注意したいのは、工事の前に市区町村へ申請しなければならないことだ。先に付けてしまうと、原則として対象にならない。申請には、ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員などが書く理由書が要る。制度の概要は、厚生労働省の介護保険における住宅改修で確認できる。細かな運用は自治体で違うので、実際に使うときは窓口で確かめたい。

母の区分は要支援1である。認定の調査に私は立ち会わなかったことは前に書いた。要支援の母の場合、相談の入口は地域包括支援センターになる。手すりの話も、そこへ持っていけばいい。

玄関の上がり框のように、一か所だけが気になる場合は、まず置くタイプを借りて試すほうが私には合っていると思う。工事をして付けた手すりは、外すのも手間がかかる。母が本当に使うかどうかを見てから、付けるかどうかを決めたい。家の中でほかに増やせる支援については、施設を考える前に、家で増やせる支援で福祉用具や訪問のサービスと合わせて整理した。

付け足すときも、父の工夫の延長で考える

手すりを付けるかどうかを、母が困るまで待たなくてもいいと思い始めている。

離れは、もともと段差がなく、壁に手をつけて、物が少ない。手すりがなくても転ばずに暮らせているのは、その条件がそろっているからだ。ただ、義父の家を見ていると、付けたものが役に立つのは、慣れたあとである。慣れるのは、本人がまだ困っていないうちのほうがいい。

だから、大きな工事の前に、小さなものから足していきたい。まず、夜の通り道に足元灯を置く。玄関には、置くタイプの手すりを借りられるか、地域包括支援センターに聞いてみる。そのうえで、玄関の段差をどう上り下りしているか、壁に手をつく場面が増えていないか、歩く速さがこれ以上遅くなっていないかを、行くたびに見ておく。

父は、幼い子どもがつまずかないように、この家を平らにした。その工夫が、30年近くたって母の暮らしを支えている。手すりや足元灯を足すときも、新しく何かを付け加えるというより、父が作った家の続きを整えるつもりで考えたい。

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